資産運用を行う上でポートフォリオを考えることはとても大切なことです。ポートフォリオを作ることにより資産の内訳がはっきりとわかり、計画がとても立てやすくなるからです。この記事ではポートフォリオの考え方、作り方などを解説していきます。
ポートフォリオとはどのような物なのか
Portfolio(ポートフォリオ)とは、訳語を探してみると、「紙ばさみ」「折りかばん」「書類入れ」という意味になるそうです。つまり「書類を運ぶためのケース」のことを表し、個々の書類を別々に扱うのではなく、書類全体をひとつの物として扱うという意味になるようです。
金融でのポートフォリオの意味は、株式、債券、不動産や預金などの保有している金融商品の一覧やその組み合わせの内容(株式の銘柄などまで具体的に)を指しています。また、別の意味ではリスク管理するために複数の金融商品に分散投資をしてそのバランスを一目瞭然にすることにより収益の変化とリスクヘッジをわかりやすくする方法として使います。
投資家はリスク管理のために、自らの資産を複数の金融商品として分散することがあります。このリスク管理については、よく「卵」と「かご」の話に例えられます。卵を1つのかごに入れてしまうと、そのかごが落ちたときにすべての卵が割れてしまいますが、1つずつ違うかごに入れておけば、たとえ1つのかごを落としてしまっても、ほかの卵は安全です。このように、投資家もみずからの資産をさまざまな種類の金融商品に分けて投資することで、リスクヘッジを図っているのです。
この投資を分散させること、またはその分散の組み合わせのことを、金融・投資分野ではポートフォリオと呼んでいます。このポートフォリオを見れば、投資家がどのような金融商品をどれだけ保有しているかがわかるだけではなく、保有資産の分散の仕方からリスクに対してどのようなヘッジ(分散による備え)をしているのかが見て取れます。
特定の金融商品だけに偏った資産配分をすると、予測外の大きな市場変動があった場合、資産のほとんどを失ってしまうリスクがあります。それを避けるため、「さまざまな金融商品にバランス良く資産を配分しておいたほうがいい」というのがポートフォリオの考え方であり、最もリターンが大きくリスクが小さい最適な組み合わせを探る「ポートフォリオ理論」が研究されているのです。
ポートフォリオの作り方
どのようなポートフォリオは作るかは、その人の収入・総資産額・リスク許容度・年齢・運用期間などによって異なります。まずは、目標や目的を決めたうえで、予算などを確定します。ここからは、ポートフォリオの作り方を解説していきます。
①予算と目標を決める
ポートフォリオを作るにあたり、まずは、以下の項目を決めてからスタートすることになります。
- 最初に投資する金額とその後の積立金額
- 資金が必要となるまでの投資期間
- 目標とする利回りと最終的な資産残高
目標となる資産残高と投資期間から、毎月の積立金額や目標となる利回りを計算していきますが、積立金額は無理のない範囲で決める必要がありますし、目標利回りは、高く設定してしまうと、その分、リスクも高くなってしまいます。
従って、長期で継続して積み立てができて、ある程度、リスクを抑えることができる、現実的な予算と目標を立てることが重要です。
②投資のバランスを決める
ポートフォリオを作るということは、分散投資を行うということです。投資の予算と目標が決まれば、次はポートフォリオを作りに着手していきます。
投資の種類としては、預貯金に加え、債券、株式、不動産(REIT)、商品(金)が一般的です。他にも暗号資産や他の商品(穀物・原油など)もありますが、余程興味がない限り、そこまで広げる必要はないでしょう。
更に、投資地域として、日本、先進国(アメリカ、EU、イギリスなど)、新興国(中国、ロシア、ブラジルなど)に分類されます。
投資の種類と地域の組み合わせの中から、どの地域のどの資産にどのくらいの比率で投資するかを決めることがポートフォリオを作りとなります。
ちなみに、厚生年金などの年金は年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が運用をしており、国内株式25%、海外株式25%、国内債券を25%、海外債券を25%、を基本としたポートフォリオに基づき、運用をしています。
では、私たちはどのようなポートフォリオにしたら良いのでしょうか。いくつか例を紹介していきます。
リスク・リターンを抑えたい方向け
国内債券・・・60~70%
国内REIT・・・20~30%
国内株式・・・10%
安全資産と言われる国内債券をポートフォリオの中心にします。ただ、これだけですと預貯金とほぼ変わらないリターンしか得られませんですので、比較的利回りが得られる国内REITを次に多く組み入れます。更に、国内株式も入れますが、これはリスクを抑えるため、10%程度とします。
全て円建ての投資となりますので、為替リスクも発生しません。
ある程度のリターンを狙いたい方向け
国内株式・・・30%
先進国株式・・・30%
国内債券・・・20%
国内REIT・・・20%
株式の比率を60%に引き上げて、長期的な値上がり益を狙います。残りは国内債券とREITに投資することで、こちらは安定資産に振り向けます。
外貨建て資産が30%ですので、ある程度の為替リスクは負うことになります。
とにかくハイリターンを狙いたい方向け
先進国株式・・・50%
国内株式・・・20%
新興国株式・・・20%
金・・・10%
資産のほとんどを株式に投資をすることで、世界経済の成長による値上がりを益を積極的に取りに行きます。投資する地域も、日本以上に、先進国や新興国に投資をします。更に、金にも投資をすることで、インフレによる値上がり益も狙います。
株式相場は長期的には上昇することが期待できますが、景気循環やアクシデント(金融危機、災害、戦争、疫病など)の影響で、大きく下落することもありますので、ハイリスク・ハイリターンに位置付けられます。
更に、外貨建て資産への投資割合が高いので、為替リスクも負うことになります。
とにかくバランス重視
国内株式・・・12.5%
先進国株式・・・12.5%
新興国株式・・・12.5%
国内REIT・・・12.5%
先進国REIT・・・12.5%
国内債券・・・12.5%
先進国債券・・・12.5%
新興国債券・・・12.5%
全ての資産に均等に分散投資をするこのポートフォリオは、とにかくバランスと安定性を重視しています。
③どの商品に投資するか決める
商品
株式や債券などは、いったいどのようにして投資したら良いのでしょうか。
投資する方法としては、個別銘柄を購入する方法と、インデックスファンド(ETF)や投資信託を購入する方法があります。
個別銘柄を購入すると、その銘柄の値動きが、そのまま運用成績に反映されますので、リターンは大きいものの、半面、リスクも大きくなります。
インデックスファンドや投資信託は、ファンドを通して、数多くの銘柄に投資をしますので、分散投資を図ることができるメリットがあります。半面、運用経費がかかるデメリットがあります。
税制優遇
投資に関しては、NISAやiDeCoといった、税制優遇制度があります。折角ですので、投資を始めるのであれば税制優遇制度を利用して、お得に資産運用を始めたいものです。
ただし、期間や金額などに制約がありますので、ポートフォリオの中でどの資産で税制優遇制度を使うかは、事前によく検討しましょう。
ポートフォリオの運用方法
ポートフォリオは一度組んでしまえば、ずっとそのままということでは無く、定期的に見直しをしていくことが必要です。
①ポートフォリオの見直し
リバランス
金融商品の価格は常に変動していることから、時間が経過すると、当初の資産配分比率がズレてくることがあります。株式を50%、債券を50%で始めても、株式の値上がりにより、株式が60%で債券が40%になることもあります。
あくまでも資産評価は時価評価で行われるべきですので、ポートフォリオの見直しとして、全ての資産を時価評価して、資産配分比率を整えるリバランスをするかどうかを検討することが必要です。
リバランスは必要ないという考え方もありますが、長期的にリスクを抑えた運用をするのであれば、リバランスはする方が良いでしょう。
リアロケーション
資産運用の環境は、世界経済や政治の状況によって変化します。景気は循環しますので、回復期と後退期があります。そのため、リバランスだけでなく、リアロケーションにより資産分配自体の見直しをすることも必要です。
しかし、リアロケーションは、運用にある程度慣れていないと難しいので、最初のうちは、リバランスだけで良いでしょう。
慣れてきたら、景気回復期には株式の比率を高め、後退期には債券の比率を高めることで、景気循環の波を利用して、上手に運用することにチャレンジしてみましょう。
②見直しは四半期か半年に1回
ポートフォリオの見直しは、四半期か半年に一回行うようしましょう。皆様にとって、資産運用は、あくまでも副業だと思いますので、毎日のように時価を追っていくのは、時間的に難しいでしょう。
また、年末近くになれば、含み益が出ている銘柄と含み損が出ている銘柄を売却し、また、買い戻すことで損益通算を行うことも検討してください。
ポートフォリオを作る上での注意点
では、実際にポートフォリオを作る際に注意すべき点はどこにあるでしょうか。
もちろん、資産運用ですので、手数料(購入、運用)に関しては、注意すべきです。更に、必要なことについて解説して行きます。
①ポートフォリオはシンプルに
長期的な投資であれば分散投資を図ることが必要ですが、あまりにも投資している銘柄が多すぎると、管理が煩雑になってしまいます。
そのため、ポートフォリオは、ある程度シンプルであることが望まれます。まずは、数銘柄からスタートし、その後、銘柄を少しずつ増やしていき、最終的には10銘柄くらいまで増やすのが適当でしょう。その中で、各銘柄の保有割合は5%、10%刻みとわかりやすい数字で構いません。
②ETF(上場投資信託)を活用する
株式や債券などの個別銘柄を選択して投資することは、時間がかかる作業ですし、リスク分散になりません。いずれは、銘柄を増やすにせよ、できれば、最初から分散投資をする方が望ましいでしょう。
投資信託やETF(上場投資信託は)は、運用報酬はかかりますが、ファンドを通して、数多くの銘柄に投資をしますので、一銘柄に投資をしただけで、多くの銘柄に分散投資をした効果を得ることができます。
特にETFは、運用報酬が低額で株式と同様に売買できますので、コスト面や取引のし易さからお勧めの投資対象です。
例えば国内株式に投資をしたい場合は、日経225に連動するETFを購入すれば、主要な日本株225銘柄に加重平均で分散投資するのと同じ効果を得ることができるので、日本企業の成長に伴う株価上昇を期待することができます。
他にも、米ドル建てであれば、米国のS&P500指数に連動するETF、格付けがBBB以上の適格債券や国債に分散投資する債券型のETF、格付けの低いハイイールド債券に分散投資するETFなど多くの種類があります。
これらを10銘柄程度組み合わせることで、数千の銘柄や数多くの地域に分散して投資をすることが可能になります。
③年齢別の株式と債券の比率について
リスク許容度は、年齢が若く、運用期間が長いほど、一般的に高くなります。そのため、運用を開始する年齢、運用資産を使い始めるまでの期間によってポートフォリオの内容は変わって来ます。
株式に関しては、配分比率は(100‐年齢)%がおおよその目安とされています。例えば、35歳の人が資産運用を始めようとすれば、65%を株式に残りを債券に半分するのが良いということです。
逆に、50歳以上の方が資産運用を始めるとすれば、債券の方が多い、比較的リスクを抑えたポートフォリオでスタートすることが良いということです。
④少しだけリスク商品に投資をしてみる
資産運用にも少しは、遊びや楽しみが必要かもしれません。リスクを極力抑えるポートフォリオを作ったとしても、ほんの一部(1~3%)をハイリターンが狙える銘柄を入れても良いでしょう。
具体的にいえば、上場したばかりの株式であったり、身の回りで、最近よく使うようになったサービスに関連する株式などです。もちろん、外国の株式でも構いません。
もし、そのような株式が10倍、いや100倍になれば、資産の増加に大きく寄与してくれます。もし、駄目でも1~3%の比率であれば、損をしてたとしても大きな影響はありません。
アップルの株価は、2006年のiPhoneの登場以来、この約15年で50倍近くに増えています。このような感じで、身の回りから、第二のアップルを探して投資してみませんか!!
ファンドマネージャーからのアドバイス
資産運用において、投資する銘柄を選択したり、その業績などをチェックするよりも、ポートフォリオを作ったり、確認することに時間をかけることをお勧めします。そのためには、個別の銘柄というよりも、ETFや投資信託を軸にポートフォリオの中身を埋めていくのが良いでしょう。
ポートフォリオ運用は、やや保守的でつまらない投資方法かもしれません。信用取引や借り入れなどでレバレッジを利用して、小さな元手で大きなリターンを得ようとする投資方法もあります。
しかし、金融機関のディーラーなどと比較して個人投資家は情報の量やスピードは格段に劣り、かつそれに費やす時間もレベルが違います。個人の資産形成は、30年、50年と長期にわたるものですので、長年にわたって取り組むことが可能なスタイルでやっていきましょう。
長期の時間を利用し、分散投資でかつ世界の経済成長に合わせたポートフォリオを組むことで、着実に収益を上げていくことが成功率を高める方法だと思います。
投資初心者にとっては、ポートフォリオを作るのは、なかなか難しい作業です。最初は、大体のイメージで数銘柄から始めてみましょう。試行錯誤を繰り返しながら、金融商品に関する知識を増やして、1~2年で最終的な形が見えるのが理想です。
証券会社や銀行でもポートフォリオの作り方の相談に乗ってくれます。また、ウェルスナビのように最初からポートフォリオを準備してくれるような投資もあります。
他の記事も参考に、ご自分のポートフォリオ作りを始めてみてください。
まとめ
資産形成を始めるのであれば、目についた銘柄に投資をしていくのでなく、まず最初にポートフォリオを作り、それに基づいた運用を行うことで、リスクを抑えながら、最終的な目標に安全に到達することができます。何事も行き当たりばったりでなく、最初に計画を立てて、後は、その通りに実行できているか管理するようにしたいものです。
資産運用を始める年齢や自分のリスク許容度などによって、ポートフォリオは異なってきます。ETFを上手に活用し、老後に向けた資産形成を始めましょう。
合わせて読みたい...