マンション・アパート経営の法人化とは、会社を新たに設立し、持っている不動産を設立した会社が所有や管理をして経営を行うことです。
法人化には、不動産を所有する会社を設立する方法と、不動産を管理する会社を設立する方法の2種類があります。
マンション・アパート経営の法人化の方法
不動産を「管理する」会社を設立する方法
管理会社を設立する場合、建物や土地は自分名義のまま、設立した会社にマンションやアパートの管理業務を委託する形式をとります。
主なメリットは、管理会社に支払った管理手数料や管理会社の役員に支払った報酬を経費にできるため、課税所得を減らせます。
不動産を「所有する」会社を設立する方法
所有会社を設立する場合、個人で経営していたマンションやアパートを売り、会社名義の不動産とすることで、法人経営に切り替えます。
このとき、土地と建物の両方を売却し会社名義とする方法と、建物または建物だけを売却する方法があります。
会社で所有する方法は、管理する方法と比べて大きく税金を減らすことができます。
マンション・アパートを法人化するメリット5選
その1:相続における税金対策
設立した法人で、マンションやアパートを3年間保有すると、資産の評価額を個人経営した場合と同じ相続税評価額にまで小さくできます。
そのため、相続対象の株価も下がり、相続税対策 につながります。(不動産の割合が、総資産の中の70%以下の場合)
また不動産を株式として相続できるため、相続の際に分割するための面倒な手続きが不要になります。
その2:所得における税金対策
個人でのマンション・アパート経営に生じるのが、所得税と住民税です。
住民税率は所得に関係なく10%と一定ですが、所得税は累進課税制度が採用されています。
一方法人としてのマンション・アパート経営には法人税が生じます。
東京都23区に事務所を有すると仮定した資本金1億円以下の中小法人の場合、法人税の実効税率は約33.58%です。
法人税の実効税率とは、法人税・住民税・事業税の税率を使い、実際に納税する際に用いる税率のことを指します。
これらを総合的にみると、個人経営の所得税のみが累進課税制であり、所得の増加に伴って税率も増加するため、所得が一定のラインを超えると法人経営の税率のほうが低くなります。
法人化にかかる費用も考慮して考えると、個人所得が1,000万円を超えるラインが法人化への移行を考える目安となります。
ただし、この個人所得は不動産所得だけではなく、サラリーマンとしての給与所得も合算となります。
その3:贈与における税金対策
不動産所有を通して会社が得た家賃収入を、家族を役員として分配すれば贈与にならないため、贈与税も減額することができます。
その4:経費的な面での税金対策
法人としてマンション・アパート経営した場合、個人経営に比べて、幅広く経費にすることができます。
というのは、個人と法人とを比べたとき、法人経営では経費として認められる領域が広いからです。たとえば法人の場合、役員報酬も経費として計上できます。
その5:赤字を繰り越せることでの税金対策
法人経営では個人事業主と比べて、繰越欠損金の繰越期間が長いことも特徴です。
繰越欠損金の繰越では、ある年の赤字を繰り越し、翌年以降で黒字の年の利益の計上を減らすことができます。
個人事業主の3年に対し、法人には10年間の繰越期間が設けられているため、より長期的に税金を減らすことができます。
マンション・アパート経営を法人化する時の注意点
1.費用がかかる
マンション・アパート経営を法人化する際、会社を設立する初期費用として、株式会社の場合、約20~30万円程度の費用が必要です。
またこうした初期費用に加え、法人の規模や利益に応じて、法人住民税均等割や社会保険料などの維持費用もかかります。
2.税金対策にならない可能性もある
法人の規模が小さい場合は税金対策にならない可能性があります。
前述の通り、不動産所得と給与所得を合計して個人所得が1,000万円を超えるラインが目安となるので、所得や費用、税金を比較したうえで状況に応じた判断が必要となります。
相続税対策でアパート経営を法人化する際のポイント
1.法人の役員
マンション・アパート経営を相続税対策として法人化する際は、不動産を所有している本人ではなく将来の相続人を会社の役員にすることがポイントです。
役員という立場に置くことで、不動産の家賃収入、つまり財産を役員報酬という形であらかじめ分配でき、将来の相続財産を減らすことができます。
2.法人の株主
相続人が出資する形で会社を設立し、株主となると、本来不動産の所有者の遺産となる不動産収入が、法人のオーナー(株主)の利益となるため、こちらでも相続財産を減らすことになり、相続税対策につながります。
3.建物と土地のどちらを法人化させるか
- 親の代から所有しているような土地の場合、取得費が明確になっていないと、土地の売却額の95% が譲渡所得税の課税対象となります。
- 相続時土地は所有の仕方によっては、「小規模宅地の特例」が使えます。これはある一定の条件下では、不動産の相続税評価額を最大80%まで減額することができます。
- 建物部分の法人化については帳簿のうえでの未償却残高として譲渡が可能なため、実質的には譲渡所得税がかかりません。
自分が相続した不動産活用でアパート経営の法人化による相続税対策を行う際には、土地・建物のいずれを売却して法人化するかの判断がポイントになります。
マンション・アパート経営を法人化する流れ
会社を設立するにあたっては、以下のような基本事項を定める必要があります。
1.不動産の所有方式
会社が不動産を管理するのか所有する形式かを選ぶ必要があります。
また、所有方式を選んだ場合、会社は建物だけを所有するのか、建物と土地の両方を所有するのかも決めなければなりません。
それぞれ初期費用や収益性に違いがあるため、状況を考慮して適切な方法を選択することが必要です。
2.法人形式の選択
不動産所有法人の場合、合同会社もしくは株式会社が多く選択されます。
合同会社は株式会社と比べて設立費用が低く、また後に株式会社に変更することも可能です。
ただし、場合によっては金融機関からの評価が低くなる恐れもあるため注意が必要です。
3.定款を作成
定款は会社の商号や事業目的などを記載したものです。
会社のルールや規律となるため、会社設立の際には必ず作成しなければなりません。
4.法人登記
法人設立にあたっては設立登記が必要です。
その際に登記申請書や印鑑届出書などの書類が必要になります。
準備ができ次第法務局で設立登記の申請と会社印の登録手続きを行います。
その後法務局での設立登記から2か月以内 に税務署で開業申請をします。
5.法人による資金調達
個人で多くの資金を所有している場合を除き、融資してくれる金融機関を探さなければなりません。
しかし、金融機関による融資においては、設立した法人が不動産賃貸業以外の事業も行っていると見なされると、融資期間が最長20年程度となる場合があります。
6.役員報酬の決定
マンション・アパート経営の法人化に伴い、その法人の役員報酬を決めます。
役員報酬の金額を定められるのは、1年に1回のみであり、一度決めると増額できないため、節税できる金額を想定して報酬設定をすることが大切です。
アパート経営で法人化以外に税金対策をする方法
1.経費計上を漏れなく行う
法人化による経費計上は利益圧縮につながるため、漏れなく計上することが大切です。
共用部分の水道光熱費や修繕費なども忘れずに経費として計上します。
2.小規模企業共済の活用
小規模企業共済は、個人事業主としてある一定の金額を、課税対象となる所得から控除できる制度です。