不動産投資の対象は国内の物件だけでは、ありません。海外不動産への投資というのもあります。
海外不動産投資には、キャピタルゲインが狙えたり、高利回りであったりなど、国内不動産投資には無いメリットがあります。
では、不動産投資初心者がいきなり海外不動産投資に取り組むべきでしょうか?ここでは、海外不動産投資のメリット・デメリット(リスク)と、不動産投資初心者の海外不動産投資への取り組み方を解説して行きます。
海外不動産投資のメリット
海外といっても、アメリカのように経済が成熟した先進国、中国・インド・ブラジルなど成長が著しい新興国、アフリカ諸国などの発展途上国があります。日本とは大きく経済状況が違う海外の不動産に投資するというのは、日本の不動産投資には無いメリットがあります。
キャピタルゲイン(値上がり)を期待することができる
日本は世界三番目のGDP(国内総生産)を誇る経済大国ですが、ご存じの通り、少子高齢化の影響もあり、成長率は全世界の中でも低い方に属します。
出典:時事通信 2021年3月23日記事
上記グラフは公示地価変動推移ですが、この20年間、地価は右肩上がりではあるものの、変動率はかなり少ないものとなっています。
もともと、不動産取引は仲介手数料、不動産取得税などの取引コストが大きいため、価格変動が大きくないとキャピタルゲインを得ることができません。国内の不動産投資では、なかなかキャピタルゲインを狙った投資は難しいと言えるでしょう。
しかし、海外には不動産価格が大幅に上昇している国もあります。そのような地域においては、キャピタルゲインを狙うことができます。
中国の大都市、上海や北京のマンションは値上がり傾向にあり、庶民が手を出せないなどのニュースを見たことがある方もいらっしゃるでしょう。
不動産価格に関しては、やはり「経済成長率」と「人口増加率」がキーワードとなります。経済成長により都市に人が集まり、住宅需要・オフィス需要が高まります。しかし、需要に供給が追い付かなくなれば、当然価格は上昇します。
また、最近では世界中の投資マネーが、投資の機会を探しています。コロナ前は、経済成長が狙える各国の主要都市においてオフィス、マンション、ホテル用地を次々に買い漁って開発をしていました。
少し前では、ミャンマーなどのアジア新興国が、日本企業進出を見越して、注目を集めていました。そのような新興国では、マンション一室が500万円程度から購入できるものもあり、値ごろ感からも人気を集めていました。
安定した家賃収入が期待できる
経済成長により人口が増加している都市は、住宅やオフィス需要が高いことから、空室率が低く、常に供給より需要が多い状態であれば、賃料の値上がりも期待できます。
賃料が上がれば、利回りも高くなりますので、売却によるキャピタルゲイン獲得の機会にもつながります。
築年数が経っても価格が下がりにくい
出典:国土交通省 既存住宅流通を取り巻く状況と活性化に向けた取り組み
日本においては「新築信仰」が強いため、住宅流通シェアのほとんどを新築住宅が占めますが、アメリカ・イギリス・フランスにおいては、既存住宅(中古)の流通量の方が圧倒的にシェアが高くなっています。
日本では住宅購入は新築という考えですが、このように欧米では中古に住むのがあたりまえになっています。中古の流通量が多いというのは、取引が活発ですので、価格自体が落ちにくいということになります。
もちろん、その都市の歴史や地震などの災害といった背景もありますが、アメリカでは中古物件の取引を活性化させるため、インスペクション(住宅診断)が行われいて、建物の状況の把握が容易であり、更に、MLSという不動産のオープンデータベースが整備されているので、間取りなどの基本情報に加え、過去の取引価格なども閲覧することができます。
このように、日本とは違い中古市場が整備された国においては、築年数が古くなっても価格が下がりにくく、売買がしやすいというメリットがあります。
分散投資をすることができる
日本は、もともと地震リスクが高い地域です。更に最近では豪雨による水害なども、頻繁に発生しています。海外には、地震と無縁のような地域もあります。このような場所の不動産に投資することで、自然災害のリスクを分散させることができます。
また、海外不動産投資は、現地通貨建ての投資となりますので、自分の資産の一部が外貨建てになります。つまり、通貨分散を図ることができます。
このように、海外不動産投資は分散投資を行うのには有効な手段となります。
節税メリットが享受できた(過去形)
海外不動産投資がブームとなった一因に節税メリットがありました。
アメリカの中古アパートなどは、売買価格に対する建物価格の割合が大きく、更に、償却年数が短いことから、キャッシュフロー自体は黒字であっても、会計上の利益は、減価償却費を大きく計上し、赤字とすることで、本業の給与所得と損益通算することで、課税所得を減らすことができました。
所得が高く、外国語に慣れている、外資系金融機関やコンサルティング会社勤務の方は、積極的に海外不動産投資に取り組んでいました。
海外不動産投資は、以下で説明するように、多くのデメリットやリスクがありますが、それ以上の節税メリットがあったため、高所得者の節税方法として海外不動産投資はブームとなりました。
しかし、この方法は従前より問題視されていたので、2020年に税制改正がなされ、2021年からは、海外不動産投資は、どんなに減価償却費が多くても、赤字を損益通算することは不可能となりました。
この税制改正によって、高所得者が海外不動産投資をするメリットは小さくなってしまい、海外不動産ブームは一時期ほどでは無くなっています。
海外不動産投資のデメリット・リスク
不動産投資ですので、当然、デメリットやリスクはあります。キャピタルゲインを得ることができる反面、新興国などは経済や政情が安定していないため、何かのきっかけで不動産価格が大幅に下落することもあります。また、賃料相場も大きく動くこともあります。
また、外貨での投資となりますので、当然、為替リスクもあります。特に新興国通貨は為替の変動が大きく、キャピタルゲイン以上に通貨が値下がりしてしまうリスクもあります。
このような一般的に想定されるデメリットやリスク以外にも、以下のようなものもあります。
融資を利用することが難しい
新興国の不動産であれば、500万円程度で投資できる場合もあり、それほど大きな金額にはなりませんが、アメリカなどの先進国で投資をしようとすれば、どうしても金融機関からの融資に頼る必要があります。
しかし、国内の金融機関から融資を受けて、海外の不動産に投資をするのは、かなりハードルが高くなります。国内の投資用不動産向けの融資には積極的である金融機関も、海外の不動産となると、担保となる不動産の価値や担保権の設定方法、支払いが滞った際の担保処分の方法など、国内の不動産と融資管理方法が全く異なります。
従って、融資を受けられたとしても、金利や融資期間、また担保評価額や掛け目など、条件はかなり厳しくなります。国内に多くの資産があり、プライベートバンキングと取り引きがあるような方は、有利な条件で融資を受けられる場合もありますが、そのような方は一握りでしょう。
後は現地の金融機関から融資を受けるしかありませんが、現地の銀行と外国語で折衝したり契約書を締結するのは至難の業です。三菱UFJ銀行の国内支店で取り引きがあるので、アメリカでも同行と取引ができるかというと別問題です。
日本の銀行は海外に支店を持っていますが、これは現地法人ですので、現地の法律や商慣習に基づいて運営されています。また、多くは、現地に進出している日本の大手企業やその取引が主な取引先であり、基本的には個人の不動産融資は取り扱っていません。
物件の管理に手間がかかる
国内の不動産投資であれば、投資物件を自分で管理することもできます。また、管理を人に任せる場合も、管理会社を選ぶことができますし、管理状況を確認するため、自ら現地に行くこともできます。
しかし、海外不動産投資では、そのよう訳にはいきません。自主管理は、余程のことがない限り、不可能です。現地の管理会社に管理を委託する必要があります。
今はメールでやり取りができますが、時差があればやり取りにタイムラグが生じますし、場合によっては、外国語でのやり取りになってしまいます。管理会社も、やり取りを面倒に感じ、後回しにしてしまうこともあり得ます。
空室が出た場合の修繕や新規募集の条件など、任せっぱなしにはできません。外国語でオンラインでミーティングできるくらいの外国語力と不動産の知識があれば問題ありませんが、不動産関連の単語など、なかなか慣れない言葉も多いですし、
現地の管理会社が提出してきた報告書をもとに、こちらで税務申告をしなければいけませんので、管理は現地だけの問題ではありません。
日本の管理会社が現地に支店を出していて、日本と現地の管理会社でトータルでサポートしてくれるような場合でない限り、管理会社の選定や、やり取りは、簡単ではないでしょう。
法律や税制が変わるリスクがある
日本でも不動産投資に関する法律や税制が改正になることもあります。当然、海外においても同様のことも起こります。
日本での改正であれば、有識者の意見を聞き、更に、議論に時間をかけるなど、準備することができます。しかし、海外、特に新興国であれば、突然、法律や税制が改正されるリスクがあります。
また、その内容も外国人投資家にとっては理不尽と感じられる内容のものもあるでしょう。
開発許可を得ている不動産開発物件に投資したものの、途中で、開発許可が取り消されてしまったり、保有している投資物件に対する税金が突然高くなったりすることも珍しいことではありません。
送金・両替リスク
日本円は基軸通貨の一つとして、日銀などへの報告義務などはありますが、外国為替や送金が自由に行えます。アメリカやオーストラリアなど、先進国でもこれは同様です。
しかし、それ以外の国であれば、現地通貨への両替はできても、現地通貨を日本円に両替するのに制限があったり、時期によってはできなかったりします。また、投資が成功して物件が売却できても、日本へ送金できないことも、よくあることです。
このように、国によっては、外貨が流失することを防いだり、国内での再投資を促すために、あの手この手を使って、両替や送金をさせないようにしてきます。特に、新興国では為替相場の動きが不安定ですので、両替や送金の制度が事前の通知も無く、突然変わることもあります。
日本との慣習が違う
日本であれば、不動産取引(決済)時には、融資を受ける銀行で書類を確認して、司法書士に登記手続きを依頼しますが、海外では、手続きが異なります。登記の制度も違いますし、代金の支払い方法も違います。
これらはエージェントに指示に従い手続きを進めることになりますが、自分でも制度や仕組みを事前に理解することが必要です。
日本で新築物件を購入すれば、全て内装まで終わっているので、すぐに賃貸に出すことができますが、外国では、スケルトン渡しで、内装は購入後に自分で業者を手配して行わなければならないことも珍しくありません。
また、部屋の面積の計算方法も日本では室内だけですが、海外では共用部分も含める場合もあります。
更に、賃貸借の習慣や法律も日本とは違いますので、投資する前に違いを把握しておく必要があるでしょう。
投資初心者は海外不動産投資をするべきか
海外不動産投資はメリットも大きいですが、それ以上にデメリットとリスクのある投資です。いくらメリットが大きいといっても、不動産投資初心者がいきなり手を出すのは危険ですので、お勧めはしません。
まずは、国内不動産の投資を行い、不動産投資の流れや運営方法などを一通り経験してから、取り組むべきでしょう。
海外ETFや投資信託を通じた海外不動産投資
もし不動産投資経験無しで、海外不動産投資を行いたいということであれば、REIT(上場不動産投資信託)や投資信託がお勧めです。ただし、税制の関係から、国内の投資家が海外のREIT銘柄を直接買い付けることはできません。
しかし、REITを対象とした指数のETFは、日本の証券会社の口座を通じて投資できます。例えば、「iシェアーズ米国不動産ETF(IYR)」は、80以上の米国REITを組み入れたETFで、詰め合わせパックのようなものです。
他にも、証券会社や銀行を通じて、米国やオーストラリアなどの海外REITを投資対象とした投資信託も購入することができます。
海外不動産投資で、キャピタルゲインを得たい方や分散投資を図りたい方は、このような投資をご検討ください。
海外不動産投資に向いている方
それでも、海外不動産に直接投資してみたいという方もいらっしゃるかも知れませんが、以下のような方には向いていると考えられます。
- 不動産投資に慣れている方
- 現地に何かしらのネットワークを持っている方
- 保有資産が多く、多少の損失が出ても大丈夫な方
- 投資した不動産に居住することで、海外移住も可能な方
- 海外生活に慣れている方
ファンドマネージャーからのアドバイス
今はコロナ禍で海外へ行くこともできませんが、ワクチン接種が進み事態が落ち着いてくれば、海外との行き来も再開され、海外不動産投資もまた身近になって来るでしょう。
新興国投資ブームというのは数年に一回来るもので、10年以上前にはベトナムの不動産と株式が大変注目を浴びていました。
筆者も付き合いで「ベトナム不動産投資ファンド」という海外投資信託を日本の某証券会社で購入しました。ちょうどその数年前にホーチミンに行って、直接、現地の不動産会社や銀行から話を聞いて、ベトナムでの投資は難しいと判断を下した後だっただけに、購入したファンドが上手くいくかは半信半疑でした。
結局そのファンドは、資金だけ集めて、5年間、一件の不動産も購入することはできませんでした。現地の不動産取引に精通しているスタッフが運営しているというファンドでしたが、購入や開発に際しての法的規制や商慣習の壁を乗り越えることができずに、管理費用だけが取られておしまいでした。まあ、まだ少しでもお金が還ってきただけでも、まだましと思うしかありません。
このように、プロを自称して、現地で投資活動をする人でも、海外不動産投資は思い通りに行きません。それを現地と離れた日本でコントロールするのは、至難な業です。良いエージェントを見つけるのも、なかなか難しいでしょう。
また、これも以前の話しですが、ソウルでマンションを数件、内見したことがあります。その際、居住中でもお構いなしに内部を見ることが出来たり、購入すれば数カ月で退去させることができるなど、日本の借地借家法とは大きく違って、大家さんの権利がとても強いのが印象的でした。また、現地のエージェントは、法律で定められた料率よりも、平気で高い仲介手数料を請求してきます。
法律や商慣習は、それぞれの国によって違います。自分の一部の資産を振り向けるには良いかも知れませんが、借金を抱えてまで資産のほとんどを海外不動産に振り向けてしまうのは、リスクの高い投資ですのでお勧めしません。
もし、投資をお考えであれば、投資信託やREITなどの金融商品での投資にしましょう。また、新興国で不動産開発を進めている企業の株なども探してみましょう。
まとめ
海外不動産投資は、国内不動産投資に比べると、手間やリスクがありましたが、これまでは節税メリットが高かったので、高所得者を中心に人気の高い投資でした。
しかし、税制の改正により節税メリットも取れなくなり、また、コロナ禍ということで海外との往来も少なくなっていることから、今は海外不動産投資を考えている方は少ないと思います。
不動産取引自体、なかなか馴染みのない投資だと思いますので、不動産投資初心者がいきなり海外不動産の投資を行うのはお勧めしません。
分散投資や新興国への投資ということであれば、REITや投資信託、もしくは不動産会社の株式を買うのも一つの手です。