不動産投資のメリットの一つとして「節税」が挙げられますが、投資なのに「節税」することができるのでしょうか?確かに、不動産投資で「節税」をすることは可能です。
ただし、収入によっては効果は限定的であったり、「節税」を目的とした投資の場合、他の不動産投資のメリットが得にくい場合もあります。ここでは、不動産投資が節税になる仕組みと解説して行きます。
不動産投資のキャッシュフローと収益
不動産投資において、年間のキャッシュフローと確定申告時の不動産所得の計算方法は、若干異なります。つまり、手元に残るお金があれば黒字、手元にお金が残らなければ赤字ということではありません。
キャッシュフロー=収入(家賃収入など)-支出(管理費、修繕費、固定資産税・都市計画税、利息、元金返済)
不動産所得=収入(家賃収入など)-支出(管理費、固定資産税・都市計画税、利息、減価償却費)
大きな違いは、不動産所得の計算では、元金返済でなく、減価償却費を控除する点です。つまり、元金返済と減価償却費が同じ金額であれば、キャッシュフローと不動産所得は、ほぼ同額となりますが、差が出る場合は、キャッシュフローと不動産所得は異なると言えます。
減価償却とは
減価償却とは、固定資産の購入費用を使用可能期間にわたって、分割して費用計上する会計処理です。設備、機械装置、器具・備品と言った時間の経過とともに価値が減少する資産のことを「減価償却資産」といいます。
不動産投資においては、土地部分は時間の経過とともに価値は減少しないと考えられており、減価償却はしません。建物・付帯設備に関しては、税務上定められた期間に応じて、毎年、減価償却費を計上して、帳簿上の価値(簿価)を減らしていきます。
例えば、5,000万円のマンションを購入します。
この内訳が、土地が3,000万円、建物が2,000万円で建物を20年間で償却するとなると、年間の減価償却費は2,000万円÷20年で100万円となります。
これに対して、5,000万円の資金を全額ローンで調達し、20年で返済する場合、年間の返済金額は5,000万円÷20年で250万円となります(元金均等返済)。
つまり、同じ20年でも減価償却費100万円に対して、元金返済は250万円です。従って、キャッシュフローへの影響は△250万円ですが、不動産所得への影響は△100万円と少なくなりますので、キャッシュフローと不動産所得は一致しません。
ちなみに、この建物、土地の割合に関しては、売主が決めることが通例です。売買の際、土地分は消費税がかからず、建物部分だけ消費税がかかってきます。そのため、売買価格に対して、消費税を計算するためには、土地と建物の割合を決める必要があります。大体の場合は、売主の簿価の割合を適用して決めます。
不動産投資が赤字となる理由
例えば年収1,500万円のサラリーマンが不動産投資をして、以下のような収支となると仮定します。
<キャッシュフロー>
家賃収入 1,000万円
諸経費 300万円
借入返済 400万円
金利 200万円
手残り 100万円
<不動産所得>
家賃収入 1,000万円
諸経費 300万円
減価償却費 1,000万円
金利 200万円
収支 ▲500万円
手残りはプラス100万円となりますが、減価償却費が多い場合は収支▲500万円となるので、給与所得と損益通算により、1,500万円-500万円=1,000万円と確定申告時の所得は給与所得1,000万円の方と同程度になります。つまり、不動産投資の減価償却により生じた赤字を本業と損益通算することにより、給与所得を引き下げ、節税につなげることができます。
減価償却は税務・会計上の制度であり、税務上の耐用年数を過ぎた建物(簿価としてはほぼゼロ)であっても、充分、使用することができるものもたくさんあります。また、管理状態によっては、税務上の耐用年数到来前でも、使用するのが困難になってしまうような建物もあります。
いずれにせよ、不動産投資においては、年間の減価償却費をより多く計上し、赤字が大きくなれば、本業の所得を圧縮し、より大きな節税効果が取れる仕組みになっています。これは、税務上認定された計算方法であり、脱税・違法行為ではありません。
ただし、自分で申告手続きをする場合、計算間違えなどしてしまうこともありますので、申告手続きは専門家(税理士など)に任せるようにしましょう。申告手続きの費用はかかりますが、安全です。
不動産投資で節税できる税金
①所得税
個人の方は、減価償却により不動産所得を赤字として、本業の所得を圧縮して、所得税を節税することが可能です。
しかし、保有している不動産を途中で売却し、譲渡益が出た場合は、譲渡益に対する課税が発生するので、単なる税金の繰り延べでは無いかという疑問もあるでしょう。
5,000万円で購入した物件を6年後に5,000万円で売却する際、譲渡益はゼロではありません。自分が保有している不動産の帳簿価格は、購入価格の5,000万円から、保有している期間中の減価償却費累計を控除した金額となります。
例えば、毎年500万円の減価償却費を計上していれば、6年後の売却時の簿価は5,000万円(購入価格)-500万円(減価償却)×6年(保有期間)=2,000万円です。つまり、買値と同額の5,000万円で売ったとしても、譲渡益は3,000万円となってしまいます!
結局、6年間節税した分を繰り延べて納税するだけなのでしょうか?
所得税率と譲渡税率を比べてみます。以下は、所得税の速算表です(国税庁ホームページから転載)。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
これに対して、不動産の譲渡税率は20%(長期譲渡の場合)です。つまり、元々の所得が高く、税率が高い方(33~45%)にとっては、20%の譲渡課税を支払っても、給与所得の圧縮分が多くなるので、単なる繰り延べにはなりません。
ちなみに、短期譲渡は、目安として物件所得から6年以内の売却で、譲渡税率は39%で、長期譲渡は、目安として物件取得から6年超の売却で、譲渡税率は20%です。
②相続税・法人税
相続税の計算の際、一般的には現預金よりも不動産の方が、相続税評価額が低くなります。更に、不動産を評価するにはさまざまな評価減の項目がありますので、これらを利用して、より評価額が低くなる不動産を購入することで、相続税を節税することができます。
また、不動産を法人で取得しても、経費や減価償却費により所得を圧縮することができます。ただし、譲渡所得など個人とは税制が異なりますので、専門家にメリット・デメリットをご確認ください。
節税に向いている物件と年収
物件
減価償却費が取れる不動産は、①木造建築、②郊外、③築年数が古い 物件と言えます。
建物の法定耐用年数は、木造で22年、軽量鉄骨プレハブ造で27年、重量鉄骨造で34年、鉄筋コンクリート造で47年です。つまり、一般的には、アパートなら22年、マンションなら47年ですから、アパートの方が単年での減価償却費が多く取れます。
第1章で、土地は減価償却できないと解説しましたが、土地・建物で建物の比率が高い方が単年での減価償却費を多くとることができます。都心の物件は、どうしても土地代が高くなるので、投資額に対する土地の割合が大きくなってしまいます。その反面、郊外の物件は土地代が安いので、建物の割合が大きくなります。
耐用年数を経過した不動産でも使用することができる物件は多いですが、そのような物件の減価償却費の計算はどうしたら良いでしょうか?
耐用年数を経過してしまった建物(木造造りであれば、23年など)の新たな耐用年数は、法定耐用年数×20%として計算します。つまり、木造造りであれば、22年×20%=4.4年と短期間での償却が可能となります。このように、耐用年数を超えた物件は、より多くの減価償却費を取ることができます。
つまり、都心から離れた土地代の安い郊外で築22年を超えた木造アパートに投資すれば、減価償却費が多く取れ、より大きな節税効果が期待できます。逆に、都心の築浅マンションは、節税効果を得にくい物件と言えるでしょう。
年収
年収500万円くらいのサラリーマンの方が、「マンション投資で節税になります!!」という不動産会社のセールスマンの甘い言葉を信じて、投資をしてしまうケースがありますが、節税メリットを享受できる年収はいくらぐらいなのでしょうか。
上記の所得税の速算表を見ると年収900万円以上から税率の上がり方が大きくなってくるのが分かります。もちろん、それより少ない年収の方でも、節税メリットはありますが、節税できる金額もそれほど多くなく、手間やリスクを考えればお勧めできません。やはり、年収900万円が一つの基準となるでしょう。
ファンドマネージャーからのアドバイス
筆者も中古アパート業者の方から、物件の提案を受けて、実際の節税シュミレーションを見せてもらったことがあります。
実際に、戻ってくる税金の金額を見ると、とても魅力的な投資です。物件は、築35年、千葉県の物件で、駅からバスで20分、更にバス停から徒歩10分の物件でした。
フルリフォームも終えて、見た目はそれほど古さは感じなく、更に、満室稼動中でした。立地や築年数から、満室が続くとは思えず、リスクが高い投資と感じましたが、アパート業者の方からは、6年後に償却メリットを取り終えたら、同社が見つけてきた顧客に売却して、また、同様の物件に買い替えることを提案されました。
つまり、物件は、そのアパート業者の顧客の中でぐるぐる回っているような感じです。それでないと、6年後に条件の良い価格では売却できないでしょう。
節税のために不動産投資をしたい層は多いので、買い手には困らないという説明ですが、やはり、不動産投資は価値が下がりにくい物件に投資すべきでしょう。
極端に節税メリットを追い求めるがために、不動産投資の固有のリスクを負いすぎるのはお勧めできません。節税メリットを追求すれば、空室リスク、修繕リスク、流動性のリスクは高まります。それらのリスクも抑えられ、節税メリットが享受できるような物件は無いと考える方が良いでしょう。
不動産は長期投資です、6年後、10年後に世の中がどうなっているか、また、経済状況がどうなっているか分かりませんし、また、税制が変わるかも知れません。金融機関の融資が厳しくなっていれば、どんなに高収入でも融資が受けられないという事態にもなりかねません。
節税の金額に目を奪われることなく、まずは、物件本来の価値をよく検討して投資の判断を下してください。
まとめ
ここまで不動産投資における節税効果を解説してきましたが、実際に投資される場合、どの程度の節税効果が得られるかは、事前に専門家(税理士など)にご相談ください。
取得後の確定申告手続きも専門家に任せる方が安全です。ご自身の年収と取得予定の物件の収支から、節税効果と投資リスクが見合うかどうかを慎重に判断しましょう。
減価償却による節税効果は魅力的ですが、節税効果の金額だけで判断せずに、投資する物件が長期で保有できる物件か、または、売却しようと思ったらすぐに売却できる物件なのかも調べて投資しましょう。節税効果が得られる分、不動産投資固有のリスクは高まります。