外貨預金を預け入れる場合は、その外貨(通貨)を購入する必要があります。逆に、外貨預金を引き出して、円で使うには、その外貨(通貨)を売却することになります。このように、外貨預金の利用には、為替取引が伴います。
外国為替市場は、日々動きがあるので、外貨の購入と売却のタイミングはとても大切です。例えば、ドル預金を預け入れようとして、1ドル120円でドルを購入して、その後、引き出しのために1ドル118円で円に戻すと、それだけで元本が目減りしてしまいます。
為替の動きは、主要通貨であれば、インターネット、新聞、証券会社や銀行の店頭などで、誰でも簡単にチェックすることができます。
では、外貨購入・売却と伴う、外貨預金の預け入れ・引き出しは、どのようなタイミングで行えば良いのでしょうか。ここでは、為替が動く要因なども合わせて解説して行きます。
為替が動く要因
外貨預金の預け入れに際しては、大部分の方は、円通貨から外貨に両替すると思います。米ドルで預金したいというのであれば、まずは円をドルに換えなければなりませんが、できるだけ円が米ドルに対して高い時に両替することができれば、為替で損をするリスクを抑えることができ、かつ為替売買益を得られる可能性を高くすることができます。
ここでは、どのような要因で為替相場が動くかについて、解説して行きます。
①景気動向
景気が良いということは、経済活動が活発であるということですので、その国の株価上昇期待や経済の安定を求め、海外投資家からの資金流入を促すことになります。そうなると、その国の通貨は需要が高まり通貨高の要因になります。
景気判断の指標はいろいろありますが、米国の場合であれば、毎月発表される雇用統計があります。雇用が増加し、失業率が低いということは、経済が順調に推移している証拠ですので、雇用統計は景気状況を判断する指標として、外国為替市場にも大きな影響を与えます。一般的には、雇用統計の数値が予想より高ければ米ドル高、低ければ米ドル安となる傾向があります。
②貿易収支
貿易収支とは各国間での輸出入の収支のことです。輸出の方が輸入より多ければ貿易収支は黒字となり、赤字の場合は、輸出より輸入が多いということになります。日本の貿易収支が黒字であれば、一般的には、外貨が余剰になるため、円を売る取引より円を買う取引が多くなり、円高となる傾向があります。
日本企業が米国に輸出して代金として受け取ったドルを円に換えるときは、ドルを売り円を買うことになります。逆に、日本企業が輸入をしたときはドルで代金を支払わなければなりませんので、円を売りドルを買って支払うことになります。(通貨決済は国際通貨の米ドルを使うという仮定です)
つまり、貿易黒字の場合は、円を買う分が売る分を上回るので円高になりやすいということです。
ただし、近年は日本の製造業には、海外での現地生産を増やしたり、多くの国で事業をしている企業も多く、必ずしも、稼いだ外貨通貨を円に両替することもないので、貿易収支と為替の相関性は以前よりも薄くはなって来ています。
③投資収支
海外投資家が日本の株式を買っているニュースをよく見ますが、日本の機関投資家も、外債や外国株式への投資を増やしています。また日本の企業が、世界でのビジネスを拡大するために、M&Aで、海外の企業を買収したりすることも増えています。
これを国全体の収支で見たのが投資収支です。
ソフトバンクがアメリカの携帯大手スプリントの買収を発表した際には、ドルで多額の資金を支払うことが予測され、円安となりました。逆に、合併後のTモバイルUSの売却を発表した際には、ドルで多額の資金受け取りが発生することが予測され、円高となるなど、大規模な企業買収のニュースが為替相場に影響を及ぼすこともあります。
④金利
日本の金利はゼロ金利政策により、長年低金利で続いています。今後も、しばらくは金利上昇が見込ないことから、海外の高金利通貨で外貨預金をしたり、外債に投資する人も増えてきています。
低金利の円を売って、金利が高い国の通貨を買うことは、円安要因の一つになるように、国家間でのの金利差は、為替変動の要因となります。
ただし、高金利政策を取っている国は、財政状態が悪く、高金利でないと海外などから資金を調達できないなどの負の側面もあります。そのような通貨は、一方的に高くなるのではなく、金利が高くても信用不安から売られて安くなる場合もあります。
従って、単純に金利差だけでなく、国や国債の信用力なども絡み合って、為替市場は変動することになります。
⑤物価
インフレと言われ物の価格が上昇している、物価上昇の状態では、通貨価値は下がる傾向にあります。インフレが起これば、一般的には、その国の政府や中央銀行は、金利を上げて物価上昇を抑制しようとしますので、通貨価値としては、高くなることになります。
逆にデフレで物価が下落している状況では、低金利政策が取られるため、通貨は安くなります。
⑥金融政策の動向
各国の中央銀行は、景気安定時期が長期化するように、また、下降時期には早く回復するように、様々な金融政策を実施しています。例えば、経済成長率や物価の低下・下落が見込まれる場合には、金融緩和を実施します。その場合、市場への資金供給量が増えて、金利も下がりますので、一般的には通貨安に向かう傾向があります。
このように政府や中央銀行の金融政策は、為替相場の動きに影響を及ぼします。
⑦地域紛争や自然災害など
テロや戦争などの紛争により、政治や経済の混乱が起こり、為替相場が大きく動くことがあります。例えば、米国における9.11同時爆破テロでは、翌朝から世界的に株式市場が大幅に下がり、為替相場も乱高下しました。
また、中東で有事が起これば、石油の需給がひっ迫すると考えられ、石油価格だけでなく、為替相場にもに大きく影響を及ぼします。
一般的には、戦争・紛争・事件・災害などが発生した国の通貨は安くなる傾向があり、反対に、日本円やスイスフランなどは、安全通貨と見られ、逆に上昇する傾向があります。
⑧その他
他にも様々な要因で為替は変動します。近年は日本ではFX(為替証拠金取引)を行う個人投資家が大きく増加し、その個人投資家の売買行動が為替相場を動かすことがあります。
世界市場ではこれを「ミセス・ワタナベ」と名付け、プロのディーラーでもその動向には目を向けています。
外貨預金を預け入れるタイミング3例
①現在が円高であると感じたとき
②将来の日本経済に不安を感じたとき
③円の預金金利が低いと感じたとき
日本の銀行に預け入れた円預金は、元本割れとなるようなリスクはないものの、金利は低く、都市銀行の窓口で定期預金を設定すれば0.002%と、ほぼ増えることは期待できません。
一方、外貨預金は為替変動の影響を受けるため、円預金より、元本割れとなるリスクが大きくなりますが、金利は高く、お金が増える可能性があります。
当面使う予定がない余裕資金であれば、長期的な運用が可能ですので、短期的に為替が大きく動いても、外貨建てのまま持って、引き出しに適した為替レートになるのを待つことができます。
また、異なる特徴を持つ金融商品に分散することで、それぞれのメリットとデメリットが組み合わさり、長い目で見たときに資産全体の価値を守ることにもつながります。
外貨預金を引き出すタイミング3例
①預入時より円安のとき
②保有する通貨の国の経済・政治・治安などが不透明になり、不安を感じたとき
③資産運用方法そのものを見直す時
外貨預金を利用する上で、気を付けるべきポイント
外貨預金を利用して、外貨を保有することは、分散投資につながることから、資産形成を進めていく中で非常に有用と言えるでしょう。まずは外貨預金から入り、その後、外債や外国株式にも挑戦してみてください。
ここでは、外貨預金に取り組む上で、気を付けるべきポイントを解説して行きます。
①長期的な流れを見ていく
米ドルやユーロなど、主要国の通貨は、どちらかに一方的に動くことはなく、ある程度の期間の中で一定範囲を上下する動きを取ります。従って、相場のチャートを見ると、その通貨が今は安い傾向、高い傾向にあるか、ある程度は知ることができます。
現在は、1ドル113~114円近辺ですが、長期のトレンドから見ると、円安傾向にあると言えるでしょう。このような時期は、無理をしてドルに両替せずに、もう少しタイミングを見ても良いでしょう。逆に、ドルを円に戻すには、良いタイミングでしょう。
為替相場は、多くの要因で変動しますので。一番高い時に売って安い時に買うことは、とても難しいものです。しかし、長期的な相場の流れを見て、大体のタイミングを図ることは大切です。
②分散して売買する
前項でも解説した通り、個人投資家が為替相場をピンポイントでとらえて、適切なタイミングで売買するのは、ほぼ不可能と言えるでしょう。大体のトレンドを掴むのが精一杯です。
更に、時期を分散して投資することは、為替リスクを抑制することに役立ちます。購入時期と金額を何回かに分けて、保有通貨を売り、投資対象の通貨を買っていくと、長期的に見れば平均的な価格で両替することができます。
例えば、300万円の日本円を保有していて、米ドルでの外貨預金を設定したい場合は、円高傾向と思われる時期に、1回50~100万円ずつ3~6回に分けて毎月購入することで、3~6ヶ月平均の為替水準で米ドルを購入したことになります。
為替相場が円高傾向にあるといっても、日々、その中で上下を繰り返しています。この方法を取ることで、大きな為替益は望めないかもしれませんが、為替損失のリスクは軽減できることになるでしょう。
③手数料に注意する
為替取引を行うと、当然ながら手数料がかかります。その他、金融機関が提示する交換レートは、買値と売値で、もともと差があります。手数料は無料であっても、この差額が大きかったり、差額が小さくても、交換手数料が高い場合もあります。
銀行の店頭(窓口)であれば、いろいろと相談しながら外貨預金の預け入れや引き出しができますが、手数料などは比較的高くなってしまいます。同じ銀行のインターネットバンキングであれば、手数料は安くなりますし、金利のキャンペーンなども行っていますので、いつも使っている銀行であっても、ホームページで手数料を確認してみましょう。
更に、ネット専業銀行であれば、もっと有利な条件で取り引きすることができます。外貨預金は円預金に比べて利率は高いものの、両替に関する手数料がかかりますので、高金利メリットを享受するには、手数料や交換レートに注意する必要があります。各社とも、サービス内容に違いがありますので、自分が預けたい通貨や預入期間などから、一番有利な金融機関を選択するようにしてください。
ファンドマネージャーからのアドバイス
株にしろ為替にしろ、資産運用を始めるタイミングはとても難しいと思います。相場が高い時期から始めてしまうと、たちまち含み損を抱えてしまうこともあるので、その後、資産運用を継続するモチベーションが低下してしまうことにつながりかねません。
資産運用を始めるのは良いことですが、外貨預金など比較的リスクの低い商品であっても、まずは、外国為替市場などについて、ある程度勉強してから始めるべきです。また、資金に余裕があれば、外貨預金の預け入れのタイミングも何回かに分ける方が、リスクを抑制することができます。
それでも、外国為替市場の動きを正確に予測するのは、難しいと思います。しかし、だいたいのトレンドを見ることはできます。円ドル相場であれば、この5年間は1ドル100円から120円のレンジの中で動いていますので、現在の114円の相場は、円安傾向にあると言えるでしょう。
アメリカ経済がコロナ禍から立ち直り、好調を維持している中、近々、利上げが予想されていること、更に、相対的に日本経済に対する期待値が低いことが、最近の円安の原因と言われています。まだ、円安の余地はあるとの予想も多いですが、一方的にどちらかに動くということは無いでしょう。
このようにチャートを見ながら、その原因を世界経済の動きから知り、今後を予測するのは大切なことです。為替相場の変動は、ガソリン価格や食品価格などにも影響を及ぼします。外貨預金を始めることは、為替相場が安いか高いか、また、その要因は何かを意識しながら生活する良いきっかになると思います。
まとめ
高金利が魅力の外貨預金ですが、預け入れや引き出しのタイミングは、なかなか難しいと思います。円預金よりも金利は高いといっても、為替変動による元本割れのリスクもありますし、外貨両替には手数料がかかります。
しかし、為替相場は常に変動しているので、ピンポイントで最適なタイミングを当てることは至難の業です。しかし、為替相場を動かす要因を理解し、長期的なトレンドを見れば、だいたいのタイミングを掴むことはできるでしょう。
預け入れのタイミングを分散するなど、時間的なリスク分散も図りながら、外貨預金に取り組むようにして下さい。外貨両替に関する手数料に関しては、他の記事でも解説していますので、参考にして、使いやすい銀行で外貨預金を利用するにしましょう。