日本で消費者物価(CPI)の上昇が始まったのは2022年4月で、この約2年間で生活用品をはじめ、多くの商品の価格が上昇しました。
日銀は、10年以上前の2013年1月の金融政策決定会合で、物価を安定的に2%上昇させる目標を導入すると決め、ゼロ金利政策などの異次元金融緩和を続けていて、長らく実現せずにいましたが、皮肉にも今回の急激な物価上昇によってそれが実現できました。
しかし、今回のインフレは、原材料などコスト上昇が要因となる「コストプッシュ型」であり、賃金の上昇が追随しないと国民の生活は貧しくなってしまいます。
この記事では、ここ最近のインフレについて、その要因や今後の見通し、更には対策について解説してきます。
今回のインフレの特徴
ディマンドプルとコストプッシュ・インフレについて
インフレは大きく2種類に分類することができます。
ディマンドプル・インフレ
一般的に、景気の拡大により人々の購買意欲が高まると、需要(ディマンド)の増加により、物価が上昇します。
このように、需要サイドに起因する物価上昇をディマンドプル・インフレと言いますが、高くても欲しいという需要が増えれば、企業など生産者は価格を上げることができ、売上と利益の拡大が期待できます。
それにより、生産の増加や新たな設備投資など企業活動が活発化し、従業員の賃金上昇も期待されます。賃金上昇が広がれば、さらに消費が拡大するという好循環が生まれます。
コストプッシュ・インフレ
一方、供給サイドである企業など生産者のコスト(原材料価格や賃金など)が上昇した場合に起こるインフレをコストプッシュ・インフレと呼びます。
原油価格高騰や人手不足による生産者コストの上昇分を、製品やサービスの価格に転嫁することで物価が上昇します。
急激にコストが上昇した場合には、価格転嫁が追いつかなかったり、値上げによる需要減退が起こったりし、企業の利益を圧迫する懸念があります。
今回のインフレはコストプッシュ型インフレ
今回のインフレは、コロナ禍で低迷していた経済活動がその終焉で一気に吹き返し、多くの分野で需要が増加したディマンドプル型に思えますが、最大の要因は、ロシアのウクライナ侵攻が影響しています。その意味ではコストプッシュ型のインフレと言えるでしょう。
ロシアへの経済制裁で、欧米を中心に天然ガスや原油の価格が一気に上昇し、更に、ウクライナ産の小麦の輸出が大幅に減少したことで、穀物価格も一気に上昇しました。
円安がインフレを加速させる日本
いち早く物価が上昇した米国では、インフレ抑制のため、FRBが政策金利を大幅に上昇させました。その結果、日米の金利差が急拡大し、ドル円相場は、2022年3月頃から円安に動きます。
3月下旬まで1ドル115円前後で推移していましたが、4月下旬には131円台となり、2年後の2024年4月には34年ぶりに160円台をつけるところまで進んでいます。
もともとの世界的なインフレに加え、円安が進むことで、ガソリンや食料品など輸入品に頼る身の回りの商品の価格は、一気に上昇することになります。
実質賃金は24ヶ月連続でマイナス
コストプッシュ型のインフレということで、賃金の上昇は、まだ物価上昇に追い付いていません。
政府は、最低賃金を引き上げるなどして賃上げを促し、また、人手不足から企業も賃金を引き上げていることから、名目賃金は27カ月連続で前年を上回っています。
しかし、物価の上昇を差し引いた実質賃金は過去最長の24ヶ月連続でマイナスとなっていて、物価上昇に追い付いていけていません。
2024年4月の労組交渉に対し、政府の強い賃上要請と、人出不足の影響もあり、連合の春闘第2回集計結果によると、平均賃上げ率は5.25%と高水準を維持しており、中小企業の賃上げ率も4.50%と、2013年以降で最も高い数値を記録しました。
春闘の結果を受けて、一部のエコノミストは、物価上昇が収まってくれば、今年終盤ぐらいには実質賃金がプラスになってくると予測しましたが、ここ最近、円安が更に進んだことで、プラスに転じるにはもう少し時間がかかると思われます。
日本は人口の約3割が公的年金の受給者ですが、公的年金の2024年の支給額は、物価上昇を反映して前年度より2.7%引き上げられています。
しかし、物価上昇率よりは低いため、実質的な価値は目減りしており、高齢者は年金が目減りし、苦しい思いをしているという声もありますが、世代間と世代内のバランスを保つため、財政負担も考慮した措置と考えられます。
インフレはいつまで続くか
2022年4月から始まったインフレは一体いつまで続くのでしょうか。なかなか難しい問題ではありますが、いくつか整理して考えたいと思います。
アメリカのインフレ
米国は市場金利の上昇によるインフレ抑止もあって、インフレは天井に近い様相もあり、エネルギー価格の上昇も一段落をしてきました。
2024年初には、インフレも収まり、景気を悪化させないためにも、FRBは年中盤から利下げに転じるという予想が大半でしたが、蓋を開けてみれば、米国経済がまだ強いことを示す主要な経済指標も発表されており、インフレ鎮静化には、まだ時間がかかり、利下げも年終盤という見方に変わって来ています。
世界情勢はいまだ不透明
世界的に資源価格・穀物価格を上昇させる要因となっている、ロシア・ウクライナ問題、イスラエルのガザ侵攻による中東問題は、いまだ収束する見込みがなく、物価が落ち着くかは見通せない状況になっています。
円安が落ち着いても日本は構造的なインフレが続く?
日米の金利差を背景に、円安トレンドは続いていて、4月末に1ドル160円台を突破し、その後、日銀による為替介入もありましたが、再び、じりじりと円安方向に動いています。
アメリカのインフレが落ち着いて、FRBが利下政策に転じれば、ドル安・円高となり、輸入物価も抑制され、日本のインフレも一息つくことが期待されています。
しかし、世界で最も少子高齢化が進んでいると言われている日本は、労働人口の減少により、人材の確保のための賃上げは続き、その分は価格に転嫁される、構造的なインフレは継続するという予測もあります。
個人でできるインフレ対策~生活編
2023~2024年にかけて、政府の後押しもあり原材料の上昇を多くの企業が価格転嫁してきました。ここにきて、イオンやニトリなど消費者に近い大企業は顧客離れなども考慮し、販売価格を維持する多くの工夫をしていますが、やはり自分の生活は自分で守るしかありません。
ここでは、個人でできるインフレ対策について、まずは生活における対策例を紹介させていただきます。
シェアリングエコノミー
シェアリングエコノミーとは、インターネットを介して個人と個人・企業等との間で 活用可能な資産(場所・モノ・スキル等)をシェア(売買・貸し借り等)することで生まれる新しい経済の形です。
具体例として、UberやAirbnb(エアビーアンドビー)が挙げられます。 Uberは個人が所有する車を、Airbnbは個人が所有する部屋を貸し出すことで収益を得ます。 シェアリングエコノミーでは、所有することよりも必要なときに必要な分だけ使用できる体験価値が重視されます。
旅行であれば、ホテルではなくAirbnbを利用することで宿泊費を節約したり、隙間時間はUberで副収入を得るなどの方法も可能でしょう。
再生可能エネルギー
個人でできるインフレ対策~投資編
インフレで気をつけたいことは、資産の目減りです。インフレが起きると物価の上昇とともにお金の価値が下がります。資産価値を守るためには、インフレに強い資産を所有したり、さまざまな金融資産に分散投資したりするなどの対応策をとると良いでしょう。
インフレに弱い資産とは、具体的に言うと、現預金・年金・受取額が決まっている保険商品です。ま更に、現在のように実質賃金がマイナスの状況では、インフレに強い資産に投資することが大切です。
インフレに強い資産は、株式・金などの実物資産・不動産などですが、もちろん、投資にはリスクはつきものです。
投資リスクを抑えるポイントは、分散投資と長期運用です。投資初心者の方は、新NISAやIDECoを利用して、投資信託に投資したり、ウェルスナビのような国際分散投資をお任せで自動的に行ってくれるような投資商品を利用することがお勧めです。
まとめ
約40年ぶりのインフレの中で、日経平均は1989年に付けた史上最高値を更新し、ドル円は1990年以来の1ドル160円台と、今は投資を始めるには、あまり良い市場環境ではないかもしれませんが、日本でインフレが収束するには、もう少し時間がかかるかも知れません。
しかし、実質賃金のプラスも、まだ先とみられていますので、長期的な考えを持って投資を始める時期に来ているような気がします。幸い、新NISAなど投資の追い風となるような新制度もスタートしています。
長期・分散投資を念頭に、投資を検討されてみてはいかがでしょうか!!