2024年第一四半期を終え、世界の株価は高値を更新し、特に米国はニューヨーク市場、ナスダックともに好調に推移しています。
FRB(連保準備制度理事会、日本の日本銀行のようなもの)の政策金利引き上げに伴って、景気は悪化するかと思われましたが、意外にも実体経済は粘り腰が強く、企業業績は順調に、失業率も低い水準で推移しています。
そのような環境下で2024年第一四半期の米国不動産はどのような状況になってるのでしょうか?
住宅
2023年10月の新築住宅価格の中央値は約40.9万ドル、1年前の2022年10月の値、49.7万ドルから18%下落しています。
住宅金利の上昇が影響し、大きく下落していますが、ここにきて下落幅は縮小傾向にはあるようです。
一方、中古住宅価格は需給の関係で前年同月に対して上昇が続いています。
米国は日本と違って、住宅ローンを借りる際、大半の人が固定金利を選択しており、現在、住宅ローン金利は年7%を超える高金利となっています。
住宅保有者が物件を買い替える場合、物件売却益を得ることはできますが、住宅ローンを借り換えると、既存の借入に比べて金利が大きく上がってしまうことから、買い替えが進まず、中古物件の供給が細り、流通物件が少なくなるため、価格は依然として上昇しています。
米国の住宅不動産の流通量は中古物件の比率が高く、2022年は新築販売戸数は中古販売戸数の12.7%前後にとどまっています。新築価格が下がっているといっても、市場が大きい中古市場が値上がりをしていれば、住宅市場全体は上昇していると言えるでしょう。
商業用不動産
その1:オフィスビル
米国では商業用不動産市況の悪化が顕著になっています。
コロナ禍後のこの2年ぐらいで商業用不動産価格は15~20%ぐらい下落し、その中でも特にオフィスの下落幅が30%前後と一番大きくなっているようです。
リーマンショック時の下落率が30%半ば前後と言われていますから、その大きさがよくわかります。
これは、コロナ禍でホワイトカラーのリモートワークが浸透し、コロナ禍が落ち着いても、オフィスへ社員の戻りが以前ほどのレベルに回復しないためであり、場所によっては空室が50%を超えるビルもあると言われています。
また、オフィスの借り手となる企業の資金調達環境の悪化も、オフィス投資を妨げる要因となっています。
今後もIT技術の発展により、リモートワーク化は更に進むと予想され、空室率を改善させるには企業の規模拡大によるオフィス需要の回復、更には、より快適なオフィス環境にするためのオフィススペース拡大などしなかく、回復には時間がかかると予想されます。
その2:物流倉庫など
商業用不動産の中にあっても、物流倉庫などはネット通販が拡大していることもあり、安定した需要に基づき、不動産価格も安定しているようです。
REIT市場
米国REIT市場は、2023年後半からの長期金利の上昇の影響を受け下落基調にありました。REITは全体のアセットに対して、一定の割合で借入を行うので、業績や株価は金利上昇の影響を受けます。
実際のところ、REITは長期の固定金利調達が主流であることから、すぐさま金利上昇の影響は受けず、今後、借換え毎に、金利上昇の影響は徐々に出てくるでしょう。
懸念される金融システムへの影響
コロナ禍後の米国は、強い経済回復により株価はIT銘柄を中心に上昇し、急激なインフレもここにきて少しずつ安定してきています。失業率は依然として低く、人件費も高騰していますが、経済環境は好調を維持していると言えるしょう。
ただし、不動産市場に関して言えば、インフレ抑制のためFRBが政策金利を急ピッチで上昇させた弊害が出つつあります。
前述した通り、オフィスをはじめとした、商業不動産部門の価格下落は金融システムを揺るがす可能性もあります。
不動産の資金調達は長期借入ではありますが、商業不動産部門の主な貸手は、相対的に営業基盤が脆弱な中堅・中小行が中心となっていて、2024年から2025年にかけて、多くの融資期限が到来する見込みです。
商業用不動産の価格が回復しないと、債務者の中には、担保評価の減少によって、借換えに十分な金額が資金調達できずに破綻したり、高い金利での借入れで金利負担が増加して業績が悪化する企業やファンドも出てくるでしょう。その結果、中堅・中小行を中心に金融機関の不良債権が増加する可能性があります。
財務省やFRBも、十分にその辺を承知し、従前より、中堅・中小行に対して、貸倒引当金と資本の積み増しを指導してきており、今後損失が発生しても十分吸収できると大半のエコノミストは試算をしているので、無用な心配のようにも見えます。
しかし、わずか約1年前の出来事ですが、「シリコンバレーバンク」が破綻し、引き続いて、「シグネチャーバンク」と「ファースト・リパブリック・バンク」が経営破綻し、わずか2か月の間に史上2番目から4番目の規模の銀行破綻が相次ぐ事態となりました。
更に、この金融不安は欧州まで飛び火して、最終的には150年以上の業歴を誇る「クレディ・スイス」を破綻に追い込んだことを考えると、いくら金融システムが理論上、強固なものであっても、小さい火種が大きな災害をもたらすことにも留意する必要はあるでしょう。