日本は地震が多い国ですが、記憶に新しいところですと、2024年元旦に能登半島で大地震が発生し、その後も小さな地震も多発しています。
日本は環太平洋火山帯の中にあり、島国で海に囲まれていることから、地震、津波、台風などの風水害とは切り離せない環境にあります。
東京都も首都直下地震等による東京の被害想定を一昨年に公表していますが、今後300年以内の南関東地域におけるM7クラスの確率は70%と推定しています。
では大地震による災害によって、不動産価格はどのように影響を受けるのでしょうか?
東日本大震災での不動産価格の変動
まずは、2011年3月11日に発生した東日本大震災の事例を見てみましょう。
被災地周辺への影響
国土交通省の調査などによりますと、岩手県及び宮城県の津波による被害が甚大であった地域においては、地価が10%以上下落する地点も見られたが、宮城県の一部の地域においては、地下の動向が二極化し、結果として石巻市で2.6%上昇(前年▲4.7%)、気仙沼市で4.9%上昇(前年▲6.2%)となったそうです。
これを見ると、震災直後は混乱した状態だったものが、政府や自治体からの支援が明確になり、復興が期待されるにつれて、不動産価格への影響は小さくなり、むしろ大きな被害を受けなかった地域は被災を大きく受けた地域からの移動によって、地価が上昇する傾向すらあったことが分かります。
液状化現象による影響
被災地から離れていても、埋め立て地のような場所は液状化現象の影響が大きく、不動産価格も下落しました。
液状化現象とは、砂などの緩い堆積で形成された地盤に強い地震動が加わり地層が液体のようにドロドロになり、沈下したりして通常の状態を保てなくなることで、砂などが堆積して地盤になった三角州、埋め立て地、砂丘などにみられる現象です。
千葉県の新浦安周辺地域では、液状化現象が発生し、道路の陥没、地面の傾斜、建物の傾きなどの現象が起こりました。
この湾岸エリアは、三井不動産や他の大手不動産開発業者がタワーマンションや戸建て住宅など多くの戸数を分譲しており、都心からも近いことから、資産性も高く人気の地域でした。
しかし、この液状化現象により、道路の亀裂、マンホールの噴水や建物の傾斜などいろいろな事が起こり、不動産価格は下落して売買も激減しました。
また、湘南の海岸沿いの人気のある地域でも、津波の危険性などを多くの人が感じて、一時不動産価格は下落しましたが、10年の月日が経ち、液状化や津波などへの心配も薄れて、昨今の不動産価格の上昇によって、現在では、下落前の価格以上に戻っています。
ファンドで保有していた仙台市内の物件はどうなったかというと
実は私どもが運用していたファンドでも、震災以前に仙台市内の山側にマンションを取得し、その後、偶然にも震災の少し前に、仙台市内の会社に売却していました。
震災後の状況を聞いてみると、常に満室で、ファンドが売却した時よりキャッシュフローは好転してようです。
やはり、被害がなかった地域は、被害があった地域からの移住の需要があったようです。
震災があったとしても、震災による被害が軽微な不動産は資産性が向上し、地盤と建物構造がしっかりした物件は資産性を保持できるという結果が見えてきました。
首都直下地震・南海トラフ地震の不動産価格への影響予測
では、首都直下地震や南海トラフ地震が起こったら、首都圏の不動産価格はどうなるでしょうか?
こればかりは、起こってみないとわかりませんが、東日本大震災の場合は、関東や関西などの日本経済の中心地の被害は軽微であったため、東北以外の地域からの支援が迅速に行われ、復興が順調に進みました。
しかし、想定されている2大地震が起こった場合、首都機能が麻痺してしまうと、同じスピードでの復興支援が行われるのかは、甚だ疑問が残ります。
大正12年の関東大震災の状況を見ても、低地である東京の東側は延焼による大被害を被っていましたし、今は当時よりも建物構造は堅牢かもしれませんが、元来は多くが埋め立て地であり、地盤はそれほど盤石ではないので、崩壊する家屋も多く出現すると思います。
また、津波による被害に関しては、小田原沖が震源地だったことから、相模湾沿岸には10メートルを超える津波が発生しましたが、三浦半島である程度防げたようで、東京湾内の津波はそれほど大きくはなかったようです。
しかし、想定される2大地震で、震源地によっては東京湾に大きな津波が押し寄せる可能性もあり、もし小さな津波であったとしても、東京の東側の地域は海抜0メートル地域も存在しているので、影響を受ける可能性が大きいと思います。
しかし、個人的な予想ですが、想定される2大地震が発生しても、現在は法整備もされ、耐火構造・耐震構造がしっかりした建物が格段に増加していて、更に、政府や自治体の多くの対策もなされているので、関東大震災のような大火災などの被害はないのではと思っています。
反面、当時に比べるとあらゆるものが東京に一極集中し、複雑化していることから、電気、ガス、特に水道のインフラなどの復旧は時間を要するとともに、復興にかかる費用は天文学的な数字になる可能性があります。
その場合、その費用は国債の大量発行により賄われ、その結果として、円の価値は下がり、インフレが大幅に上昇するようなことも起こり得るでしょう。
インフレが起これば、不動産価格は表面では上昇する可能性はありますが、インフレを加味した実質な購買力平価を加味すると下落していることになるでしょう。更に、海外投資家の資金が日本から引き上げられれば、更なる下落を引き起こすことになるでしょう。
東日本大震災では、震災後、一部の地域では不動産価格の値上がりも見られましたが、首都圏に大震災が起これば、そこまで悲観的状況には陥らないまでも、インフラ復旧に関するインフレや投資資金の流出によって、全般的に不動産価格は下落することになるでしょう。
大震災を考慮した不動産投資は?
日本で不動産投資をする上で地震のリスクはつきものです。遠くない未来に発生し得るであろう地震を避けて不動産を投資対象から外すというのも一つの手でしょう。
しかし、昨今のインフレの中で、不動産投資はそれをヘッジする大変有効な方法であり、そのリスクを少しでもコントロールしながら投資機会を探っていくことも悪くないと考えます。
ここでは、具体的な投資方法について紹介していきます。
REIT(不動産投資信託)への投資
前述のように被災のダメージが軽微であろう地域、軽微であろう建物構造もある程度は予測可能です。
地震によって想定される被害を金額で評価した指標を「地震PML(地震時予想最大損失率、Probable Maximum Loss)」といいますが、「地震PML」は475年に一度程度起こる可能性がある大地震による損害額が、建物の再調達価格に対してどの程度になるかというものです。
REITは、この「地震PML」を参考にして、取得時に「地震PML」が一定以上の物件に対しては地震保険を付保することや、投資対象から除外するなどの投資基準を設けることで、投資物件のリスク管理を行っています。
REITでは一般的に、「地震PML」が15%を超える物件には地震保険を付保し、20%を超える物件は投資対象から除外しています。
なお、REITが保有している各物件地震PMLは各種開示資料の中で確認することもできます。
このように、REITは、地震リスクをコントロールしながら物件選定をしていると言えます。
個別不動産への投資
REITでなくても、図面や構造計算書があれば、自分が投資しようとする不動産の地震PMLを知ることができますが、専門会社に算出してもらうことになるので、多額の費用がかかるため、現実的ではありません。
そこで、個人でできる簡単な調査方法を以下の通り紹介していきます。このような方法で地震リスクに強い物件を選定し、投資をするという方法もあります。
ハザードマップ
自治体が出しているハザードマップを参考にして津波や水害の被害の可能性は推測可能です。大震災などの大災害の予想も政府や地方自治体から出ています。
地盤診断サービス
ネットで「地盤診断サービス」と検索すると、無料で地盤などが分かるサービスが提供されています。
築年数で判断
建物は、建築年月日で1981年以降の耐震基準である新耐震構造か否かが分かります。また、謄本を見れば、構造は鉄筋か木造かなど簡単に知ることができます。
まとめ
東日本大震災の事例を振り返ると、「地震=不動産価格」の下落とは必ずしもなっていないようで、むしろ、震災を生き抜いた不動産には、需要が高まる可能性もあります。
首都圏で地震が発生するリスクがあることは、かなり前から言われていますが、それなりに準備もされています。
確かに、地震リスクを避けるには投資をしないという選択肢もありますが、自ら調べられることはしっかりと調べて、大災害のリスクにだた臆することなく、より良い投資機会を探していくことも大切なことだと考えられます。