世界的なインフレの波が日本まで押し寄せている
この2~3年、コロナ禍により世界的に消費は大きく落ち込みましたが、米国などは積極的な支援対策を実施し、家計のバランスシートは安定を保ちしました。
しかし、コロナ禍が落ち着きを見せると、ウクライナ戦争により資源価格が高騰し、さらにはリベンジ消費もあって、米国では、インフレ率は7%まで上昇し、2022年6月には9.1%に上昇しました。
その後、インフレ率はやや低下したもののまだ高い状況が続いています。
また欧州では、ロシアからの天然ガス供給制限を受けて、英国やEU各国のインフレ率は10%を超えるような事態となっています。
日本は物価と賃金をさせるために、長らく超低金利政策を取っていました。しかし、各国がインフレに対応して政策金利を上げている中で、日本だけが低金利であることから、金利差による円安が進行し、輸入物価は高騰、更に、エネルギー価格の上昇もあって、インフレ率は、この10月には前年比で3.6%まで上昇しています。
この記事では、インフレは沈静化するのか?またインフレの中で資産をいかに守るのかを解説して行きます。
日米欧のインフレの実態
まずは、日米欧に分けて、インフレの実態を解説して行きます。
その1:日本のインフレ
日本では20年間の間デフレスパイラルが続いて、高い物価や賃金の上昇がありませんでした。
その後、黒田日銀前総裁の下、大幅な金融緩和を行いましたが、消費者物価上昇率は年2%にも至りませんでした。
ところが、ここに来て、突然の資源価格や食料品の高騰、更に、コロナ後の経済活動の再開、人出不足による人件費高騰等によって、コストプッシュ型のインフレが起こっています。
前述の大規模金融緩和政策の効果は、あまりなかったとは思いますが、外部要因でインフレ脱却ができたことはとても皮肉な現象でしょう。
ただし、日本の場合は物価の高騰に対して賃金は追随できておらず、物価を考慮した実質の収入はマイナスの状況で、政府は労働者の給与アップを経営側に求めています。
しかしながら、企業側は将来の起こりうる経済不況まで考えると、むやみに賃金を上げるのは難しいと考え、なかなか賃上げに踏み切れていません。
今後は賃金の上昇が伴って、物価上昇に対応できるのが理想ですが、日本は、中小企業の就業者数が全体の雇用者全体の約70%を占めており、今後、中小企業の賃上げがどこまでできるかが鍵になってくるでしょう。
2021年度の年金生活者は、約4000万人と国民の3人に1人を占めます。年金は物価にスライドすると言われていますが、実質的な物価上昇に完全にスライドはできないでしょうから、高齢者が生活防衛に走ってしまえば、お金を使わなくなり、経済には大きな影響を及ぼしてしまう可能性も否めません。
その2:米国のインフレ
インフレが先行して始まっていた米国ですが、当初は、日本同様にコストが先行したインフレでした。しかし、その後、コロナ禍における政府による家計への助成金が貯蓄に滞留し、この大量の資金がリベンジ消費に向かい、その結果、好景気となってインフレをさらに加速させ、インフレの形態は異なって来ています。
つまり、今の日本と違うのは、コストプッシュだけではなく旺盛な消費が復活して、人出不足も伴ってデマンドを伴ったインフレが起こっているということです。
ただし、FRBの急激なFF金利の引き上げが奏功し、まだ高止まりはしているものの、インフレ率の上昇は落ち着きつつあります。
新規の住宅ローン金利も年利7%を超えてきているので、さすがに住宅購入者は減少しており、時間はかかりますが、インフレもそろそろ落ち着いてくるのではないでしょうか。
その3:欧州のインフレ
実はこの3地域の中で、欧州のインフレが一番深刻だと筆者は考えています。
欧州はロシアの石油パイプラインの停止、ロシアやウクライナからの食糧輸入の減少など、ウクライナ紛争の影響をもろに受けており、英国では10%を超えるようなインフレが起こっています。
他のEU諸国も同様で、コストプッシュ型のインフレに対して、ECBが急激に金利を上げることで抑え込みを図っていますが、まだ先行きが見えない状況です。
インフレに対して資産を守る方法
通常、インフレが続けば貨幣価値は下落します。つまり、現預金で保有していたら資産は目減りしてしまうということです。
日本だけのインフレを考えた場合、日本円の価値が下落するので円安となります。その場合、ドルやユーロなどの外貨を購入する方法も有効だと思いますが、今回は全世界的なインフレですので、どの通貨が有利というのは、なかなか言えません。
では、現預金以外にどのような資産を保有するのが有効でしょうか、具体例を挙げて解説して行きます。
その1:株式などの有価証券
インフレになると、一般的には原価も上昇しますが、製品価格も上昇し、それに見合う利益額も上昇することになります。それゆえ、物価上昇に連動し、増収によって株価も上昇していく傾向があります。
株式はインフレに対して強い資産ではありますが、これは一般的な場合です。中には物価上昇を製品価格に転嫁できずに、業績が悪化する企業もあるので、投資対象の選別には注意が必要です。
そのため一般の投資家にとっては、幅広い分野の多くの銘柄に分散して投資をする、「投資信託」や「ETF(上場投資信託)」が投資に適していると考えられます。
その2:金
金は世界で現存する保有量が限られていて、かつ毀損することもない現物資産なのでインフレのように貨幣価値が下落する場合は価格が上昇する傾向にあります。
金は他の鉱物に比べ、市場性が高く公正な価格で売買が可能という特徴もあります。
ただし、預金などと違って、金投資は利息を受け取れませんので、キャッシュフロー(配当など)を期待することはできません。
現在は金そのものを購入する以外にも、金ETFなども取引されており少額での投資も可能となっています。
その3:不動産
インフレで物価が上昇した場合、不動産の賃料は上昇する傾向があります。また貨幣価値の下落によって多くの人が不動産の購入意欲が増加するので、不動産価格も上昇する傾向があります。
さらに、不動産は担保力が比較的安定しているので、他の資産よりは銀行融資が受けやすく、需要が増加することから、インフレ下で価格が上昇しやすい資産と言えます。
不動産現物に投資するには、まとまった資金(場合によっては2~3,000万円)が必要ですが、最近は、REIT(上場不動産投資信託)や不動産クラウドファンディングなど、少額で投資できるものも登場しています。
まとめ~分散投資でインフレを乗り切る
インフレに対応する投資商品は、上記のようにいくつかありますが、インフレ下では、物価高騰やその後に起こりえる経済不況など多くの予測不能な状況が起こることがあるので、どれか一つを正解とするのは難しいでしょう。
一つの方法でインフレ対策をするよりも、株式などの有価証券、金、不動産など、また日本だけではなく海外の通貨分散ほか、ポートフォリオを組んで、分散投資をする対策が安全と考えられます。
このような投資商品は、もちろん投資リスクはありますが、インフレ下では現預金であっても、保有するだけで、実質的に資産は目減りしてしまいます。
現在のインフレが収まったしても、景気サイクルは循環していますので、遠くない将来、再び各国が財政支出を増やして金融緩和が続き、インフレが再び起こる可能性も十分にあります。
インフレになったときの対応だけでなく、平時からインフレ、デフレなどに対応できるよう、ご自身に合ったポートフォリオを組むことが大切です!!