共有名義不動産を売却する際のフローについて
その1: 共有者が誰なのかを把握する
売却の前には、共有者が誰なのかを明確にすることが重要です。
共有名義不動産では、相続が繰り返され、知らないうちに共有者が増えていることがあります。あらかじめ権利関係を正確に把握しておかないと、後になって共有者が発覚し、売却手続きそのものが無効になる恐れもあります。
その2: 取りまとめ役を決める
不動産の売却では、不動産に関する知識が必要なだけでなく、弁護士や税理士といった専門家の知見や、隣地との測量問題の対処なども必要となり、共有者内だけで全てに対応するのは困難です。
また、共有者が多数の場合は、全員の同意を得るのは難しく、共有者間の意見をまとめるまとめ役の存在が重要となります。
そのため売却の話を進める際は、共有名義不動産売却の実績のある専門的不動産業者(実務者)に、まとめ役を依頼し、専門的な視点からアドバイスをもらうことも話し合いをスムーズに進める手立てとなります。
その3:費用の負担割合を決める
不動産売却をする際には、以下の様なさまざまな費用がかかります。
- 仲介手数料・測量費
- 抵当権抹消費用
- 印紙税
- 登録免許税
- 譲渡所得税
原則は持分割合に応じて費用を負担するべきですが、売却前に必要な費用を把握して、費用の負担割合をあらかじめ決めておかなければなりません。
その4:最低売却価格を決める
共有名義不動産を売却する際は、「売り出し価格」のほかに、共有者同士で「最低売却価格」を決めてから売却活動をするべきです。
不動産売却では、長期間売却できなかった場合や、購入希望者による値下げ交渉が行われた際に、「売り出し価格」から値下げをすることがあります。
あらかじめ「最低売却価格」を決めておけば、共有者間の売却後の金銭トラブルを防ぐことになります。
その5: 売却取引を始める
売却価格を決めたら、売却取引を始めることになりますが、売買契約、重要事項説明、代金決済などの重要な場面では、基本的には共有者全員が立ち会う必要があります。
しかし、立会いが困難な共有者がいた場合、委任状を出すことでほかの共有者に手続きを委託することが可能です。
その6:確定申告を行う
不動産を売却して利益が出た場合は、確定申告をして、所得税と住民税といった税金を支払うことになります。確定申告は、共有者全員が個別に行わなければなりません。
また、売却した不動産が一軒家やマンションのような、居住用財産である場合は、条件を満たせば譲渡所得税から3000万円までを控除できますが、この制度を利用する際にも確定申告が必要となります。
共有名義不動産を所有しているために起こりうる問題点3例
その1:共有物分割請求の可能性
「共有物分割請求」とは、共有名義不動産の共有状態を解消し、ほかの共有者に分割を求めるための手続きのことです。
各共有者には、共有物分割請求によっていつでも共有状態の解消を求める権利が認められています。
共有物分割請求には法的強制力があるため、各共有者は共有状態の解消のために調停を行わなければなりません。
調停で解決しない場合は、裁判所にて共有物分割請求訴訟を起こし、判決で不動産の処遇を決めることになります。
裁判所の判決によっては不動産が競売にかけられ、売却代金が大幅に減額してしまう事もありえます。
その2:買取業者への売却
買取業者に自分の共有持分のみを売却した場合、共有持分を買い取った買取業者はその後以下のいずれかを行います。
- ほかの共有者全員の共有持分も買い取って、不動産全体の所有権を獲得しようとする
- 買い取った共有持分を他の共有者に転売する
どちらにしても買取業者は残された共有者に対して売買を持ちかけることになってしまいます。
買取業者への共有持分の売却にはリスクが伴うので、可能であればほかの共有者に売却するべきです。
その3:離婚時の財産分与
夫婦で共有名義になっている場合、離婚時の財産分与が問題となり、離婚協議が難航することが多々あります。
また離婚後も共有状態をそのままにすると、住宅の売却やリフォームの際に協議が必要となってしまいます。
そのため、離婚時には基本的に以下の方法を用いて共有状態を解消するべきです。
相手の共有持分を買い取る
相手の共有持分を全て買い取り、家を単独名義にしてしまえば共有状態は解消されます。
どちらかが相手に財産分与という形で共有持分を全て譲り、代わりに家の価値の半額分の「代償金」を受け取るのです。
ただし、住宅ローンが残っている場合は、完済するまで共有者の名義変更が認められない場合もあります。
不動産を売却して代金を分配する
両者合意のうえで不動産全体を売却して現金化してしまえば財産分与もし易くなります。
ただ持分割合が2分の1ずつでない場合、財産分与では通常夫婦で2分の1ずつ財産を分配するため、差配が難しくなります。
共有名義不動産と相続の関係
不動産の共有者が亡くなると、その人の持分は相続の対象となります。
つまり、相続人が複数人いる場合、共有者が2人から3人、3人から4人と増えていく可能性があるということです。
どうしても売却が難しい場合は、共有持分の放棄という方法もあります。
ただし共有持分を放棄すると、放棄した持分はほかの共有者に帰属するため、その共有者は贈与税を支払わなければなりません。