少し前に「老後資金2,000万円問題」が話題になったことを覚えていますでしょうか。これは金融庁が2019年6月3日に公表した金融審議会の市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」の内容に「老後生活が20~30年続くとすると、公的年金以外の老後資金として1,300~2,000万円不足する」と記載されていたことがニュースなどマスコミに取り上げられたことが原因です。その後金融庁からは釈明があったものの本当に老後にいくら必要なのかはっきりした答えはなかなか見つからないのが現実だと思います。
この問題の結論はその人の住んでいる場所や家族構成、生活スタイルにもより変わりますので一概には言えませんのでなかなかわかりにくいのですが、あくまで平均値としてどのくらい必要と想定されるかを分析してみたいと思います。
老後資金とは何か
多くの方が高齢になり定年を迎え、また自営業や役員の方などは就労を終えますがその時からは労働収入は基本的に無くなってしまいます。
しかし日本の平均寿命は男性で81.64歳、女性は87.74歳(2020年現在、厚生労働省発表)ですから、もし65歳で就労を止めたならば平均で20年間内外を年金や貯蓄の切り崩しや運用などで生計を立てなければなりません。長寿になっていくことは良いことではありますが、この点では多くの方が老後生活への不安を感じやすくなったと思います。
年金はいくら受給できるのだろうか
やはり年金は老後の生活の糧になる終身的な収入ですが、大きく分けて2つの公的年金があります。
(1)国民年金
国民年金(基礎年金)は、日本に住んでいる20歳から60歳未満のすべての人が加入します。学生など収入が無い方は納付猶予や減免がありますが、自営業者や学生など厚生年金に加入しない方も含めて基本的には加入します。
支給金額は20歳から60歳の40年間すべて保険料を納付していれば、月額約6.5万円(2021年度)の満額を受給となりますが、納付期間が少なければその分に応じては減額がなされます。
また専業主婦などについても国民年金第3号被保険者として基本的には国民年金が受給できるようになっています。
(2)厚生年金
厚生年金は会社員など企業に勤務している人が加入する年金で会社員などは国民年金と共に2階建てで支給されます。保険料は毎月の給料に対して定率で決められており(2020年度末現在で18.3%)、個人の収入他で異なってきます。また事業主(勤務先)は保険料と同額を負担していますので、基本的には労使が折半で負担しています。過去においては支給開始年齢は60歳でしたが、現状は段階的に引き上げられていて、2025年度(女性は2037年度)に65歳となります。
この厚生年金の給付額は就労時の給料と加入期間に応じて異なってきます。また、現役時代に納付した厚生年金の保険料には国民年金保険料も含まれているので、この受給対象者は国民年金分と厚生年金分の両方を受け取ることができます。支給額(除く国民年金)は、「平均標準報酬月額(上限あり)✕5.769/1,000✕加入月数(480か月)」でおおよそ計算できますが年収500万円前後で40年間加入すると仮定すると老齢厚生年金の支給額の平均(月額)は10万円前後になるようです。また、支給年齢の時にまだ所得がある方は収入の金額によって支給制限がありますので注意ください。
老後にかかるお金の合計
さて、老後には具体的にどのような費用が必要になるのでしょうか?
(1)一人暮らしの場合
総務省統計局の2020年度の家計調査、家計収支編によりますと、世帯支出が勤労世帯が月額平均約23.9万円、65歳以上が平均約14.5万円程度になっています。
65歳以上の主要な費用内訳は食費が月額約3.6万円、水道高熱費が月額約1.3万円、税金や社会保障費などが月額約1.2万円となっています。
(2)夫婦2人世帯の場合
総務省統計局の2020年度の家計調査、家計収支編によりますと、世帯支出が勤労世帯が月額平均約31万円、65歳以上が平均約22.4万円程度になっています。
65歳以上の主要な費用内訳は食費が月額約6.6円、水道高熱費が月額約2万円、税金や社会保障費などが月額約3.2万円となっています。
(3)家賃について
家賃は持ち家か借家か、その方の生活様式などによって大きく変わりますが持ち家ならばコストがかからないというわけではなくその修繕費や改装費、またマンションであれば管理費や修繕積立金、固定資産税などがかかります。どのような状態でも一定の費用を見ておいたほうがよいと思います。また借家で一生を過ごす方はその分の費用は見ておいたほうがよいでしょう。
(4)その他費用
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①医療費
日本では高齢になっても国民健康保険や75歳からは後期高齢者医療制度と医療制度が充実していますので、基本的には1~3割の自己負担で医療を受けられますが、がんやその他の治療で入院や手術をするとなるとそれなりの費用になってしまいます。
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②介護費用
現在75歳以上の約1/3は要支援、要介護の認定を受けているようです。
介護費用はその方の状態や地域によっても変わりますが、毎月平均では約8万円程度の自己負担があると言われています。 -
③その他
老齢になると体も不自由になることから、その対応をするために手すりの設置などバリアフリー仕様に改装する必要が出てくる場合があります。また、子供や孫など家族のお祝い事や自分の臨終後の葬儀費用など様々なコストも考えておかなければなりません。
実際にはどの程度の資金が必要なのか?
では実際にはどの程度の費用が必要なのか実際にシュミレーションをしてみたいと思います。
仮定として、夫(65歳)、妻(65歳)の夫婦2人暮らしで子供はすでに成人して独り立ちしていると仮定します。
厚生年金には40年以上加入しており一定の年金をもらえる想定です。
その場合、現状の平均寿命が男性で81.64歳、女性は87.74歳ですから少し余裕を見てあと25年間ぐらいの生活費が必要となると思います。
①老後の生活費用
22.4万円/月×12か月×25年=6720万円
(住宅費用は持ち家の管理費程度しか考慮されていません。)
②年金の生涯支給額
夫婦2人で毎月23万円と仮定すると
23万円×12か月×一生涯(25年と仮定)=6900万円
となり、年金だけで生活費は賄うことは試算上は可能かと思います。しかし、これには急激な物価上昇があった場合、趣味、旅行などの小遣いに使う費用、入院や手術などの急な出費などは一定額しか想定されていませんのでそれぞれ想定に入れると
③趣味、旅行などの費用 5万円/月×12か月×25年=1500万
急な入院や手術などの予備費 500万円
介護費用、冠婚葬祭、葬儀費用 500万円
ある程度のゆとりある生活をするためには合計で2500万円程度が必要になると想定されます。
老後2000万円問題は本当なのか
上記で書いたようにやはり老後にはいろいろなコストがかかります。個人的にはこの2000万円問題は妥当かもしれませんし、妥当ではないかもしれないと思っています。と言いますのは人それぞれの生活スタイルによってコストは全く違うからです。しかし、年金を支給額の満額近い一定の金額で受け取れる方は最低の生活はできると考えます。たまたま年金の金額が少ない方やゆとりある生活をしたい方はやはり一定の資産を保有しておく必要があると思います。
あくまで個人的な見解ですが、インフレなど物価要素を無視、持ち家がある方を前提にするとざっと65歳からの夫婦2人の老後の生活費は約7000万円、これから支給されるであろう年金を差し引いた金額が必要な資金と考えておくのが妥当な計算にような気がします。また借家の方はこれにプラスして生涯支払うであろう家賃相当額が必要だと思います。
ファンドマネージャ―から見た老後資金の作り方
老後資金は退職金など一時的に大きな所得が入らない限りはそう簡単にたまるものではありません。やはり若いうちからコツコツと貯蓄や投資をしていくのがよいと思います。特にETF(株式上場投資信託)など多くの銘柄に分散された商品を毎月、長期にわたって分散投資することで資産形成を行うことが老後資金を形成する一つの有力な方法だと思います。