2020東京オリンピックも無事に閉幕しました。
これまで、オリンピックの開催地は、開催決定後、交通や都市開発など、多額の投資により都市整備が行われました。また、オリンピック開催にともない、多くの外国人が来場することから、その地域が世界中に認知され、不動価格にも影響が及びます。
東京オリンピック閉幕で今後の不動産市況はどうなるのでしょうか。コロナ禍からの経済回復も合わせて、解説して行きます。
オリンピックの開催決定と不動産価格の関係
オリンピックの開催地はIOC(国際オリンピック協会)が候補地を選定します。まず、いくつかの都市が立候補して、プレゼンテーションなどを経て、開催の約6年ぐらい前に開催地が最終決定されます。
開催が決まっても、まだ開催日までは時間がありますので、開催都市は、各競技の開催地など開催概要を決めて、それに向けて都市整備も行っていきます。その流れとともにその都市の不動産も注目を浴びてくるようになります。
開催地になると多額の費用をかけて都市整備が行われインフラが向上するのと、かつオリンピックは世界中の人たちに放映され、また外国からの選手、関係者、メディア、観衆の来場もあり、都市としての認知度も高まるので、通常はその不動産価格は上昇に向かいます。
しかし、開催が終了すれば、加熱していた不動産市況も一段落するのが一般的です。不動産市況の上昇を牽引してきた、インフラ整備のための公共投資が落ち着けば、不動産市況も冷静さを取り戻します。また、公共投資の債務返済問題なども出てきてますので、オリンピック開催都市は、開催後に不景気になるというのが通常の流れでした。
2020東京オリンピックの前はどうだったのか?
①アベノミクスとオリンピック開催準備により資産価格は上昇
2012年に安倍政権が誕生した後、安倍政権は、「大胆な金融政策」、「機動的な財政政策」、「民間投資を喚起する成長戦略」の3本の矢を柱とする政策、いわゆるアベノミクスを実施しました。
その結果、日本の株式や不動産は上昇し、その後、調整局面による上下動はあったものの、全般的には上昇傾向で現在に至っています。
これは、まずは、金融政策により低金利が加速し、低利での資金調達が可能となった企業や個人が、借入を活用して、資産を購入したことが一つ目の原因となります。
更に、リーマンショック後の世界経済の復活の影響を受けて、海外からの投資が増加したことと、日本企業の業績も上昇したことなども影響しているでしょう。
同時に、資源価格の世界的な上昇と若年層を始めとした労働力不足による賃金上昇の影響を受けて、新たにマンションやビルを建設するコストは大幅に上昇しました。もちろん、オリンピック開催準備に向けたインフラ整備が同時に行われ、そちらに、建築資材や労働力が投下されたというのも原因となっています。
また、政府のインバウンド強化政策とオリンピック需要を見込んで、都心部を中心にホテル建設ラッシュとなり、立地の良い場所は、地価自体も大幅に値上がりしました。
その結果、首都圏における新築マンションの供給戸数は2000年の約9.6万戸から、ここ最近は3.2万戸と三分の一まで減少し、その結果、供給不足から値段も上がってきています。
この流れもオリンピックまでと予想する投資家も少なくなく、オリンピック後は首都圏の不動産価格は暴落するといった予想も出ていました。
②コロナ発生により状況が急変
しかしながら、2020年に入りコロナが発生して、状況は一変しました。そもそも、オリンピック自体の開催も危ぶまれ、結局は一年延期により無観客での開催となりました。
コロナ発生により、世界各地でロックダウンが実施されるなど、一時的なパニックが起こり、世界中で株価も暴落しました。その後、各国中央銀行が大量に資金供給を行い、株価はすぐに反発し、その後コロナ禍前の水準を超えて現在に至っています。
不動産市場も2020年前半のコロナ発生時には、一時的に取引が低迷しました。しかし、その後すぐに巣ごもり需要などによる、より広い家への移転需要が起こり、更に、海外投資家などは都心の大型ビルへの投資を再開し、むしろ物件不足の中で売買価格は上昇傾向にあります。
コロナはオリンピックよりも注目されるイベントとなり、人々の関心もオリンピックによりもコロナの動向に向いています。
現状の不動産市況
やはり相場に影響を及ぼすイベントはオリンピックでなく、コロナとなっています。
コロナ禍で、銀座など都市部の商業施設などは空室率が増加、オフィスも在宅ワークの拡充により空室率が増加しています。しかし、近い将来のコロナ禍克服後を見越していることと、また、投資資金の流入により、空室率の増加は市場価格への影響はほとんど及ぼしていません。
住宅市場に関しては、こちらはオリンピックの影響もあり、新築物件の供給が減っていることから、やや上昇気味となっています。
この世界的な金余りによる低金利の状況がそう簡単には、引き締めに転じることは無いと思われます。しばらくの間は、株や不動産も含め投資対象の下落は考えにくい状態であるでしょう。
ただし、変異株の再出現や、ワクチン接種が期待通りに進展せずに、陽性者数や死亡者数が増加する場合は何かしらの影響がでてくる可能性もあります。
結局はオリンピック後の不動産市況はコロナ次第
①コロナの見通しに関して
インターネット上で、マンションや一戸建てなど一般住宅の売却物件を見ていると、明らかに販売物件数が減少していることがわかります。
これは、夏の時期に、新築マンションの販売がそれほど多くないことも一因かもしれませんが、コロナ禍において、在宅ワークが進み、自宅内でワーキングスペースを確保できるよう、より広い部屋に買い替えたいという需要など、いろいろな要素が絡んでいると思います。
実際、都心だけではなく郊外の物件も品薄になっている気がします。さて、今後はどうなっていくのでしょうか?
オリンピック後ではありますが、これからの不動産市況に関しては、結局はコロナ次第ということでしょう。
現在、日本ではワクチン接種を急いでおり、欧米には遅れるものの、9月には国民の約70%が1回目の接種を終え、10~11月には2回目の接種を終えると想定されています。
英国、米国の推移をみると、1回目が40%の接種を超えたあたりから新規陽性者は減少し始めたのですが、デルタ株の出現により、ワクチン接種自体は進んだものの、より感染力の強いデルタ株の流行により、日本では8月になっても、新規陽性者が大幅に増加していて、日々、過去最高記録を更新しています。
しかしながら、20~50歳代が新規感染者の大半ですから、その層がワクチンを接種したならば、一定の効果が期待され、かつ重傷者数、死者数の比率は従来より大きく減少すると思われます。
これはあくまで基本シナリオとしての予想ですが、更に、新しい猛威を奮う変異株でも登場しない限りは、今後ワクチンの接種率の増加と新薬の承認、特に経口薬の承認でもあれば、このコロナもインフルエンザのように扱われるようになり、我々の生活も徐々に通常に戻っていくのではないかと感じています。
②コロナと金融政策に関して
日本は日常生活が平常化したとしても、大きなインフレが起こるとは考えにくいので、米国のようにテーパリング(金融政策の縮小)をしていく可能性は少なく、コロナ前から行われている、金融緩和は続くと思われます。
低金利政策の継続により、住宅ローンなども、借りやすい環境が続くことから、住宅需要は堅調に推移すると予想されます。資材価格も世界的な需要増により、引き続き上昇しており、この上昇なども加味すると、新築物件の価格は、むしろ高止まりする可能性もあります。そうなると、中古物件は割安感が出るため、中古物件も堅調な推移になるでしょう。
商業施設やホテルなどは、今はコロナ禍で苦戦が強いられていますが、コロナが落ち着いてくれば、不動産価格も戻って来ると考えられます。
その後は、米国でのテーパリングの影響や景気循環で、世界経済全体がやや減速傾向に入る可能性がありますので、日本においても軽微ではありますが、金利の上昇などがあるかも知れません。そうなると、不動産価格も多少の影響を受けることになります。
日本の地域別に考えると、地方にける人口減少は歯止めが利かないため、需給関係から価格下落の可能性が高く、首都圏などの超大都市においては、逆に地方からの流入が続いていくので、価格は堅調に推移することになるでしょう。
③全てはコロナ次第だが、いずれかのタイミングで負債が意識されることも
いろいろ書きましたが、基本シナリオとしては、どこかのタイミングで、ワクチンや新薬の力で、このコロナ騒動も近い将来、落ち着きを取りも戻すと想定していますが、最終的なコロナ撲滅は、まだまだ先になりそうなので、当面は、コロナと共存しながら元の生活様式に徐々に戻っていくことになるでしょう。
そうなると、不動産価格は、地方は人口減少の影響は受けるかもしれませんが、都心などは金融緩和の継続もあり、堅調に推移して行くことが予想されます。
しかし、オリンピックへコロナ対策で国や東京都は大規模な財政出動を行い、日銀のバランスシートは大きくなり、国債の発行残高も1,200兆円を超えています。オリンピックは無事に閉幕しましたが、一年間の延期や無観客の影響で、負の遺産は残ってしまっています。
アメリカをはじめ、各国とも同様に財政出動を行っていることから、政府の負債残高は、現時点ではあまり注目はされていませんが、景気が停滞する時期には、日本政府の対GDPに対する負債比率の高さなどが問題となり、金融政策を大転換する日が来るかもしれません。
当面はリスクが顕在化することなく、コロナ禍からの復活に合わせて、不動産価格も堅調に推移するとは思いますが、オリンピックとコロナによる負債問題があることは、意識しておく方が良いでしょう。相場は常に予想を裏切ります。
まとめ
東京オリンピックの開催決定は2013年9月の出来事でした。2012年に発足した安倍内閣のアベノミクス政策と合わせて、オリンピック投資は株価と不動産の値上がりを牽引してきました。
当時はアベノミクスの息切れと、オリンピックバブルの崩壊ということで、2020年のオリンピック以降には不動産価格は下落するという見方も多かったものの、このコロナ騒動で様相は一変しました。
人類はコロナを克服しつつありますが、まだ途上です。コロナ対策として、ワクチン接種が普及し、治療薬などの開発も進んできています。コロナ禍の影響を受けた世界景気に対しては、各国とも積極的な財政出動で株価や不動産価格の下支えをしましたが、むしろ金余りの状態となり、資産価格はコロナ前より上昇しています。
オリンピックは無事に閉幕となりましたが、当面はコロナ克服と景気回復に注目が集まり、金融政策も相まって、不動産価格は特に都心部では堅調に推移することになるでしょう。
しかし、ワクチンにも副反応があるように、この積極的な金融政策にも政府債務の膨張という、負の側面もあります。特に日本はオリンピックに関わる負債も加わります。不動産価格は一本調子に上がるということはありません、政府の債務問題があるということを意識して、常にリスク分散を心がけながら投資を行いたいものです。