資産運用を行う場合、全資産を一つの投資に集中するのではなく、いくつかの種類の資産に分散し、その割合をどのように持っていくかを考えていくことはとても大切なことです。このバランスを組むことをポートフォリオを組むと言います。
では、どのようにポートフォリオをくんでいくのがよいか、またどのような割合で組むかを解説していきます。
資産の区分け
まず最初に現状の資産を把握することから始めましょう。今の生活に必要な資金そして投資に向ける資金を区分けすることが大切です。
①生活に必要な資金
生活に必要な資金は、家賃、食費、水道光熱費、通信費など、今の生活を維持していく費用で、給与所得者であれば、毎月の手取り給与の中で賄われるべきものです。他にも突然の休職やケガ、病気など、突然の出費に備えて手取り給与の3か月分ぐらいは、最低でも銀行預金に貯金しておきたいものです。
また、結婚、出産、マイホームや車の購入など、あらかじめ計画ができるようなライフイベントがあります。これらは事前にその資金計画を立てておき、その出費に備えておくのがよいでしょう。
②余裕資金
手元にある資金から、生活に必要な資金とライフイベントに備えた資金を除いて、残った資金が余裕資金です。この資金は、純粋に投資に回すことができます。
具体的に自分の余裕資金がどれくらいあるか計算してみましょう。
投資資金の区分け
投資に回すことができる余裕資金の計算ができて、投資資金が確定しました。しかし、その資金全てを最も利回りが高いと考えられる資産に投資するわけではありません。利回りが高いということはリスクも高くなるからです。運用目標をしっかりと建てて、自分の年齢も加味して設定をしていきましょう。
①目標の設定
投資の目標値設定はとても重要なことです。まずは投資金額と投資期間を決めます。投資資金は前章で算出した余裕資金を充当して、投資期間は、投資開始から、投資資金を使う予定までの期間ですので、投資期間が何年間あるかも計算します。
例えば、年齢が40歳として65歳で定年となり、運用で得た資金を年金とともに使っていくとしたら、運用期間は、25年間です。この25年間を最大限利用して長期運用をしていきます。また、毎月の収支に余裕があり投資に回せるようであれば、それも毎月積み立て方式で投資に回すことができます。
②ポートフォリオの作成方法
投資金額と投資期間を決めたならば、どの程度の金額をどの分野へ投資するかなど、細かい投資割合を決めてポートフォリオを作成します。ここで重要なのは、どこまでのリスクを取るかということです。
例えば、株式投資をする場合ですが、株式投資は他の投資に比べて、ハイリスクハイリターンと言われています。大きな経済ショックが起こった結果、株価が暴落して、投資金額の50%程度になってしまう可能性もありますが、逆に急騰して50%以上上昇する可能性もあります。
過去10~20年ぐらいの平均値をもとに計算すると、株式投資は、年間6~10%ぐらいの収益になる可能性が高いと言えます。つまり大きく利益を得たい場合は、株式投資の比率を高くすることで高い収益を狙うことができます。
(出典 日経新聞2021年2月15日)
また、全体の運用益に関して、年間5%程度を狙いたいのであれば、株式の運用目標を年間8%、不動産の運用目標を年間4%、債券や預金の運用目標を年間2%とすれば、それぞれ40%、30%、30%でポートフォリオを組むと平均して年率5%となります。このように、資産を分散して、リスクコントロール分散を図るとともに、目標利回りを達成できるようにします。
もし投資元本が1,000万円であれば、400万円、300万円、300万円となります。そして、更に各投資対象の中で、どのような投資をしていくかを決定していくことになります。株式投資であれば、銘柄選定であり、不動産投資であれば実際の購入物件の決定です。
この年間5%を複利で20年間投資し続けて、目標通りに行った場合は、1,000万円が約2,500万円(税金考慮前)になると想定されます。
各資産の投資方法
①株式投資
株式投資も分散が肝要です。上記のように株式投資で年間8%程度を目標とする場合は、個別の銘柄よりNYダウ(S&P500)指数や日経平均指数に連動するETF(上場投資信託)のほうが、個別銘柄に投資をして銘柄の変動に影響されるより、分散投資ができて動きが安定するのでお勧めです。
特に米国市場では、ヴァンガードやアイシェアーズなど、全上場銘柄を荷重平均したETFやS&P500のように、代表的な上位500銘柄を加重平均したETFなど多彩に商品があります。
また、全世界の株式市場に連動するようなETFもあります。いずれもドル建てですがネット証券などを中心に日本でも取引が可能です。
日本市場に投資したい場合も、日本で上場している円建てETFで日本の代表的な225銘柄の加重平均に連動するETFや各業種別のETFなどもあります。年間の信託報酬が多少はかかりますが、一般の投資信託に比べると相当に低いので分散投資にはとても役立つ商品です。
上記のようなETFではなく、自分自身で個別銘柄の事業内容や業績を分析して投資したい方は、株式投資のカテゴリーでポートフォリオを組み、成長が期待できそうなグロース株、安定的で資産性が高く配当も十分に得られるバリュー株、マザーズなどの新興市場で大きく成長が期待できそうな新興株などカテゴリーの割合を決め、かつそのカテゴリーでも銘柄を分散しながら投資していくことが良いでしょう。
②不動産投資
不動産投資は、1物件の金額が大きく、かつ、通常は借り入れをして投資するために、分散投資を行いにくい側面があります。
ただし、不動産自体は、一定の需要があり、バブル崩壊時期を除いて、戦後はそれほど大きな値下がりは少なかったことから、株式より下値は安定していると言えます。
不動産購入時に調達した不動産ローンは、不動産の価格が下落しても返済しなければならないお金ですから、そのリスクはある程度管理しておくことが大切です。
この管理方法としては、企業で行われるバランスシートと呼ばれる貸借対照表を参考に、簡易的な表を作るとわかりやすいと思います。これは左右に項目を分けて、左に現預金、株式、不動産など投資に振り向けた項目を書き出し、右にその資金の調達方法である借り入れと自己資金を書き出していきます。
投資した合計と借り入れなどで調達した合計+自己資金が左右で合致すると正しい表となります。
株式や債券などにも投資し、更に預貯金などもがあっても、不動産投資もしている場合、調達側(右側)は自己資金が少なく、借り入れの割合が多くなってしまいます。
自分の借入比率がどの程度であるかということと、株式、債券、不動産の時価評価をしてみてスタート段階に比べて、資産と負債のバランスがどうなっているかチェックしましょう。
不動産は、通常、家賃収入で安定的に入る投資ですが、空室リスクの他、地震や洪水などの災害が発生する場合もあり、思わぬ出費が必要になることも想定しておきましょう。
不動産購入時には、火災保険に加入すると思いますが、被害額の全額がカバーできるかどうかはわかりません。その時に備え、不動産以外の換金できる資産もある程度保有することも視野に入れておきべきだと思います。
③その他の投資
その他、一般的な投資対象としては、株式や不動産以外に、国債などの債券、FX(外国為替証拠金取引)や商品先物などがあります。
債券は、その発行体の信用度にもよりますが、一定の決められた金利が入りますので、安定運用の一部に組み込むことは有益です。ただし日本のように低金利の場合は、ほとんど金利が付きませんので現状では組み込むことは難しいでしょう。
FXや商品先物は、価格の上下動が激しく、しかも証拠金として資金を入れて何倍にもレバレッジをかけて投資する仕組みであることから、更に保有資産の値動きは大きくなります。
短期投資で大きな利益を狙うには向いているかもしれませんが、長期投資でポートフォリオの一部に組みこむには不向きだと思われます。
④預貯金
生活に必要な資金としての預貯金は必須です。この資金をまず確保したうえで、銀行預金、証券会社のMRF(マネーリザーブファンド)など、すぐに換金、引き出すことができる状態にしておくべきです。
ファンドマネージャーからのアドバイス
ファンドマネージャーの仕事は良い銘柄を探すこともそうですが、常にポートフォリオを確認することと、理想的なポートフォリオを追い求めることも更に重要な仕事です。
個人投資家であれば、ポートフォリオは考えずに、とりあえず、気の向くままに投資をしている方も多いと思います。人には好き嫌いや向き不向きがありますので、いつの間にか資産のほとんどが日本株式で、更に、ある業種に偏っているなんてこともあります。
老後の資金として2,000万円が必要と言われていますが、今の貯金額と収入を考えると途方もない金額であるようにも思えます。しかし、長期間で安定して運用できれば、それほど高い利回りでなくても、10~20年で投資資金を倍にすることは可能です。
常にバランスを取るというのは、頭でわかっていても大変難しいことです。株価が上昇傾向にあれば、資産の全額を株式投資に回したくなりますし、株価が下落傾向にあれば、株式投資をやめて債券投資だけにしたくなります。
しかし、長期的には分散投資をする方が良いパフォーマンスを得られることの方が多いと言われています。我々も、マーケットの状態に投資判断が流されてしまわないよう、ポートフォリオというルールを作っておき、相場が動いてもポートフォリオを確認することで頭を冷やすことにしています。
まとめ
投資金額と投資期間を計算し、それぞれの投資割合を決めて投資運用することで、長期の分散投資のポートフォリオを作ることができます。分散投資をすれば、1つの銘柄の投資で大きな利益が出ても、全体では、その利益は薄まってしまいますが、逆に大きな損失が出たとしても、薄めてくれる効果があります。
長期運用は、常にリスクヘッジを心がけ、安定運用させるために分散投資を基本に、平均して少しずつ増えて行けるようにするのがよいでしょう。そのためには、攻めと守りを両立したポートフォリオを組むことが成功への近道かと思います。
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