【税理士による解説】空き家の売却方法について

近年空き家の増加が社会的課題の1つとして取り上げられています。

居住しない実家を相続して管理費や固定資産税などの維持費を捻出することを持て余している方もいると思います。

空き家は、活用していないと負担の大きい不動産であり、経済的負担だけでなく、片付けずに放置していることや倒壊リスクに対する心理的負担も挙げられます

空き家を売却したい意思はあるものの、売却方法が分からない、費用に不安があるなどの空き家問題について考察していきます。

空き家の売却方法

1.空き家のまま売却する方法

家を解体せずに「中古住宅」、もしくは「古家(ふるや)付き土地」として売却する方法です。

明確な決まりがあるわけではありませんが、建物の価値が大きく変わる築20年を目安として、築20年以内なら「中古住宅」、築20年以上が経過しているのなら「古家付き土地」となります

中古住宅は、面積や立地などが同条件の新築住宅と比較すると安く手に入れられるため、家の購入費用を抑えたい人からのニーズがあります。加えてその価格の安さにより、ライフスタイルや働き方に合わせて、自分好みの間取りや内装にリフォームしたい人からのニーズも期待できます。

古家付き土地の場合は、解体費用がかからない、固定資産税を抑えたまま売却活動ができるなどのメリットがあり、売却にかかる費用を減らすことができます。

2.更地にして売却する方法

空き家を解体して更地にしてから売却する方法です。

更地にするメリットは、古家付き土地として売却するより早く買い手が付くからです。なぜなら、更地として売却するケースでは、購入後に買主が解体費用を負担する必要がないためです。

更地にして売却する方法は、建物の老朽化が進んでいて、倒壊の恐れがある場合や、リフォームやリノベーションに多額の費用がかかる場合で、解体費用は発生するものの、解体費用を売却価格に上乗せできる場合があります。

また、更地にすると建物付きの場合と比較して、土地にかかる固定資産税や都市計画税が高額になります。

建物がある場合の土地の固定資産税や都市計画税は令和3年度まで減税措置の対象ですが、建物を解体してしまうと減税措置の対象でなくなってしまうため、固定資産税は3~6倍、都市計画税は3倍に上がります。

3.買取を依頼する

空き家を不動産会社に直接買い取ってもらう方法です。

立地や築年数などの条件がよくないと、一般的な仲介を通して不動産売却を行う場合、買い手が決まるまでに数か月から半年程度かかるケースがあります。

しかし、買取なら最短1週間で売買契約ができ、1か月で残代金の決済までを完了できます。

ただしリフォーム代を差し引いた価格で買い取られるため、相場の約6~8割程度の価格になり、売却価格は市場の相場より安くなります。

空き家の売却にかかる費用

1.仲介手数料

仲介手数料は、不動産会社に空き家の売却を依頼し、売却が成立した際に不動産会社に支払う成果報酬です。上限金額については、宅地建物取引業法で以下のように定められています。

売却価格(税別) 仲介手数料の上限
200万円以下   売却価格×5%(税別)
200万円超から400万円以下 売却価格×4%+2万円(税別)
400万円超  売却価格×3%+6万円(税別)

なお、仲介する空き家の取引価格が400万円以下の場合、「低廉な家等の売買又は交換の媒介における特例」により、不動産会社は「仲介手数料+必要経費(物件調査費や人件費など)」として上限18万円(税別)を売主に請求できることになっています。

2.解体費用

空き家を解体し更地にしてから売却する場合、解体工事の費用がかかります。

一戸建てに多い木造建築の場合は、1坪当たり4~5万円程度が相場です。

解体費用は、主に建物の種類によって決まりますが、立地条件や老朽化の度合い、業者によっても異なります。

3.相続登記費用

相続した空き家を売却するには、相続登記が必要です。

相続登記とは、法務局に申請して不動産の名義変更を行うことです。相続登記を行うことで、初めて自分の不動産として扱えるようになります。

相続登記を行う過程では、申請書類の取得費、登録免許税、司法書士への依頼費用がかかります。

4.空き家売却にかかる費用の削減方法

①リフォームせずに売却する

リフォームにかかる費用は、老朽化の度合いや工事内容によって異なりますが、家全体をリフォームするとなると、一戸建てでは500~2,000万円程度かかります。

売却前にあえてリフォームを行わないということは、コストカットにもつながりますし、リフォームを待たずに早く売却活動ができます。

②不用品は自分で処分する

家の中の不用品はできるだけ自分で処分することで、処分費用を節約できます。

不用品の処分を専門業者に依頼すると、家庭ごみではなく「産業廃棄物」としての処分になるため、処理費用がかかります。

空き家の売却に係る税金

1.譲渡所得にかかる税金

土地や、一戸建て・マンションなどの不動産を売却した際に発生する利益は「譲渡所得」となります。この譲渡所得には、金額に応じて所得税や住民税などが課税されます。

譲渡所得の算出方法

譲渡所得=物件を売った金額等(譲渡収入金額)–【物件を買った費用(取得費)+売却時の諸費用(譲渡費用)】

譲渡所得にかかる所得税や住民税

不動産保有期間  所得税 住民税 復興特別
所得税
 合計
保有期間5年以下  30% 9% 0.63% 39.63%
保有期間5年超  15% 5% 0.315% 20.315%

不動産の保有期間が5年以下で売却して得た売却額は、「短期譲渡所得」、保有期間5年を超える場合は「長期譲渡所得」と呼ばれ、長期譲渡所得にかかる税率のほうが低く、税額が安くなります

2.印紙税

印紙税とは、不動産売買契約書を含む課税文書を作成する際に課せられる国税です。空き家を売却する価格に応じて税額が定められています。

2024年3月31日までの間に作成された契約書は、租税特別措置法による軽減措置の対象となります。

契約金額 本則税率 軽減税率
10万円超~50万円以下のもの  400円 200円
50万円超~100万円以下のもの 1,000円 500円
100万円超~500万円以下のもの 2,000円 1,000円
500万円超~1,000万円以下のもの 1万円 5,000円
1,000万円超~5,000万円以下のもの  2万円 1万円
5,000万円超~1億円以下のもの 6万円 3万円

3.税金を抑える対策

①相続した空き家の3,000万円特別控除

被相続人から取得した相続不動産を売る際に利用できる特別控除です。

空き家をそのまま売却して売却益が出た場合に、一定の要件を満たせば、「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」が適用されます。

つまり、譲渡所得のうち3,000万円までは税金が控除されます。これは、「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」を相続空き家にも準用したものです。

②相続した空き家の取得費加算の特例

相続や遺贈により取得した空き家を売却した場合、譲渡所得の計算に使う「取得費」に相続税の一部を加算できる特例です。

この特例を利用するには、相続税の申告期限の翌日から3年がたつまでに譲渡している必要があります。

③10年超所有軽減税率の特例

空き家を売却した場合、売却した年の1月1日時点で10年を超えて所有していれば、住民税をはじめとする譲渡所得にかかる税金の税率が低くなる特例です。

更地にした土地にこの特例を適用するためには、家屋を解体した日から1年以内に契約が締結され、かつ、住まなくなった日から3年がたつ年の12月31日までに売却している必要があります。

※なお、上記でご紹介した控除や特例は、併用できない場合があります。

空き家を売却する際の注意点

1.名義変更できているか確認しておく

空き家を売却する際に、最も重要ともいえるべきことは、不動産の名義変更ができているか確認しておくことです。

不動産を取得する際は、所有者が誰なのかという情報が登録されます。この不動産の所有者を登録する手続きを「登記」といい、不動産の所有権が移り、名義を変更する手続きを「所有者移転登記」と呼びます。

空き家を売却する際に、名義が自分になっていなかった場合は、名義変更を行うまで売却できません。

そのため、相続したばかりの不動産を売却したい場合には、まずは名義変更を行ってから売却活動を進める必要があります。

2.状態を確認しておく

空き家を売却する際には、建物や設備の状態以外に、地盤の状態についても必ず確認するべきです。

建物や地盤の現状を把握することで、修繕できるところが見つかり、買い手に好印象を持ってもらえる可能性が高まります。

建物の耐震性が低い場合や、「特定空き家」に認定されそうな場合、建物の修繕が難しいとされる場合は、建物を壊し更地として売却することも検討すべきです。

「特定空き家」とは、国土交通省が示している衛生上有害となる恐れがある建物や、倒壊の危険性がある建物などがこれに該当します。

3.更地にするタイミング

建物を壊して更地にして売却する場合は、更地にするタイミングを考慮する必要があります。

その理由としては、建物を壊し更地にしてしまうことで、家主の税負担を軽減するための減税措置の対象から外れてしまうからです。

そのため、取り壊しを行った結果、固定資産税の支払いが増えてしまいます。

固定資産税は、毎年1月1日時点の土地の状態で決定されます。

もし、更地の状態で1月1日を迎えてしまうと、その年の1年間は税金が軽減される「住宅用地の軽減」が適応されません。

そのため、1月2日以降に更地にすることで固定資産税額を抑えることが可能です。

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