コロナとインフレを克服しつつある米国経済、不動産市場はどうなっているか?

はじめに

日本でも2023年5月にコロナが5類に移行され、二年以上続いたコロナ禍が実質的に終わりを迎え、街に人と活気が戻ってきました。

コロナ以前の状態にすっかり戻ったように感じますが、コロナ禍で形成された生活スタイルの変化は大きく、コロナ禍が終わっても、もとに戻らないものもあります。この流れは、当然、不動産市況へも影響が出てきています。

更に、ウクライナ侵攻とコロナ禍で行われた景気浮揚のための金融緩和政策などの影響により、世界的にインフレが進行し、今年に入り、インフレ抑制のため米国は金融引締政策を取り始めました。

その結果、米国経済は、コロナ禍による景気停滞、その後のインフレに対して、機動的な金融政策を取ることで、経済成長を維持し続けています。

しかし、不動産市況はコロナ、インフレと今年に入ってからの金融政策に翻弄されており、必ずしも好調とは言えないようです。ここでは、コロナ前後と金融環境に翻弄されている米国不動産の状況についてまとめてみました。

コロナ前後での市況の変化について

その1:住宅市場は郊外が活況

コロナの感染拡大により、米国でも大企業やIT系企業を中心にテレワークによる仕事が急激に増加したことから、郊外への移住が増加し、郊外の住宅取引は活況となり、住宅価格は郊外を中心に上昇しています。

コロナ後も、自宅や近所のサテライトオフィスなどで仕事ができる体制が確立されて、家を中心とする生活スタイルの流れは継続していくことが予想されます。

その2:オフィス市場の苦境は続く

一方、出社率が大幅に減少したために、都心部のオフィス需要は減少し、空室率は大きく上昇しています。

コロナ禍が終わっても、テレワークを取り入れた仕事方法が確立されたことから、以前のような出社状況には至っていません。

ニューヨーク、マンハッタンなどでは、週末前後の月曜日、金曜日の出社率は50%以下にとどまり、更に、火曜日~木曜日もコロナ禍前の水準までは戻っていないようです。

その3:一番ダメージを受けた商業不動産

レストラン、小売店などの商業不動産は、コロナ禍で人流が停滞したことで、最もダメージを受けています。

米国のショッピングセンターなどのテナントは、長期リースで売上歩合制度を導入しているものが多く、テナントオーナーの双方とも大きなダメージを受けました。

コロナが終わり、人流が回復し、更に、コロナ禍での政府給付金により家計の貯蓄も増加したころから、消費は急激に回復し、商業不動産市場も急激に回復してきています。

しかしながら、コロナ禍でアマゾンなどネットオーダーによる配送やウーバーイーツなどのデリバリーが定着し、消費者の購買方法も多様化しています。

その結果、コロナ禍で上昇した空室率もコロナ禍前までには戻らず、市況が回復したとは言えない状況にあります。

その4:だぶついた投資資金は倉庫や賃貸マンションに向かう

株式市場はコロナパンデミックで一時的に大きく下落しましたが、中央銀行による大量の資金供給やさまざまな経済対策の効果もあり、すぐに株価は戻り逆に値上がりしました。

特にコロナ禍における新しいライフスタイルに対応して業績を上げた、ネットフリックスやAmazonなどの株価は順調に推移しました。

不動産投資市場もまた、だぶついた投資資金の受け皿として、コロナ禍で需要が増加した倉庫物件や賃貸住宅など、社会インフラ的な不動産に資金が集まり、価格は上昇しました。

インフレ抑制のための金融引締と市況の変化について

コロナパンデミックによる景気低迷を回避するため、先進国の中央銀行は大幅な金融緩和を進め、更に、このタイミングで、ロシアによるウクライナ侵攻で、食料や資源価格は高騰し、世界的なインフレ状態に突入しました。

このインフレを抑え込むため、米国の中央銀行であるFRBは、2022年後半から金融引締に政策転換し、政策金利を大幅に上げました。2022年1月の政策金利は0.25%でしたが、現在の政策金利は5.5%と急ピッチでの利上げです。

ここにきてようやくインフレ率は落ち着いてきて、そろそろ利上げも打ち止めという観測も出ている中、各種経済指標を見ると、米国の景気は依然として好調状態を維持しているように見えます。

しかし、不動産市場には、いろいろと弊害が起きているようです。

その1:住宅市場は安定的に推移しているが将来には不安を残す

日本の住宅ローンは変動金利型を選択する方が増えていますが、米国は固定金利型が中心です。

そのため、過去に低金利で借りて住宅を取得した方は、住宅の買い替えにともない、新たに調達する住宅ローン金利が上昇することを嫌い、買い替えに消極的になっています。

そのため、中古売り出し物件は少なく、新規物件に関しても、開発業者が高金利下での販売状況を懸念し、供給を増やしていないことから、物件は不足気味となっています。

この需給関係とインフレ対策のために不動産を購入しようとする人も多いことから、高金利下でも住宅価格は安定しているようです。

しかし、金利上昇は、月々のローン支払額の増加につながり、米国の賃金がいくら上昇しているといっても、銀行のローン審査も厳しくなってきています。

長い目で見ると、現在の高金利のローンの利息・元金を長期に渡って支払い続ける負担は大きく、今後は購入意欲が減退し、住宅価格にも影響を及ぼす可能性は高いと考えられます。

その2:オフィス、商業不動産は借り換えを乗り切ることができるかが鍵

オフィスや商業不動産を保有する法人やREIT(上場不動産投資信託)などは、中長期で資金調達をしていることから、金利上昇の影響をすぐには受けませんが、一部では、過去のローンの借り換え時期を迎えているものもあります。

コロナ禍で空室率が上昇し、家賃が低下したままの物件もありますので、その場合、担保価値が低下していると見られ、借り換えが不可能になり、最悪、デフォルトする可能性もあります。

もし、そのような物件が増えてくれば、市況は悪化することになるでしょう。

まとめ

その1:米国経済が好調でも不動産市場は徐々にしわ寄せがきている

米国経済は、インフレとその抑制のための高金利という景気低迷要素が揃っていますが、労働者不足による賃金の上昇やIT技術による省力化やコロナ後のリベンジ消費などが支えとなり、経済は依然として好調を維持しているように見えます。

しかし、不動産市場は、コロナによる生活様式の変化や高金利政策の影響を受けており、今後、住宅の買い控え、オフィスや商業不動産のデフォルトなどが起こる可能性は十分あると言えます。

その2:日本の投資家への影響に関して

2023年3月から5月にかけて、金融引締政策のあおりを受け、米国の地銀3行が破綻し、日本の株価も影響を受けました。

今後、米国の不動産市場の変調が景気の足を引っ張るようになれば、米国の長期金利が下がり、為替も円高に方向転換する可能性もあります。

そうなれば、今の日本市場のトレンドである、円安・株高・長期金利高も影響を受けることになります。

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