IT化によって生活の効率化は促進し、スマホや電化製品などは、新機能が備わった新製品が次々と発売され、常に消費者対して新しいものへの買い替えを提案してきます。
しかし、一方では、使い捨て文化を見直し、あるものを再利用し、CO²削減を進めるなどのサステナブル的な考え方も浸透しつつあります。
自動車分野においては、電気自動車への移行が急速に進んでいますが、一方では、クラシックカーまではいかないまでも、旧型の名車を整備して乗ることも若者を中心に流行っていると聞きます。
これは、再生利用をするというよりは、懐かしいものに触れたいという一種のレトロブームなのかもしれませんが、不動産市場においても、古くても良いものを有効活用するというだけでなく、古民家やヴィンテージマンションへの投資が注目されるなど、一種のレトロブームが到来しています。
この不動産市場におけるレトロブームに関して、これから二本の記事に亘って解説して行きます。まず、この記事では、古民家への投資方法や注意点について解説します。
そもそも古民家とは何か?
一般的に「古民家」とは、建築後50年経過した建物とされていますが、一般社団法人全国古民家再生協会での「古民家」の定義は、昭和25年の建築基準法の制定時に既に建てられていた「伝統的建造物の住宅」すなわち伝統構法とされています。
古民家が脚光を浴びる背景
背景1:インバウンドによる需要増と法改正による規制緩和
不動産の価値の評価方法は、土地の建物の値段の合計という方法や、収益還元法と言われる、その物件が生み出す収益から、還元利回りで割り戻す方法があります。
古民家は、地方のものが多いことから、土地や建物の価値も低く、更に、収益を生み出しにくいことから、以前は価値が高くない不動産として考えられていました。
しかし、インバウンドや地方創生によって、多くの観光客が地方都市を訪れるようになり、ホテルなどの宿泊施設が不足していること、更に、体験を重視した旅行スタイルの普及など、古民家を巡る環境が一変し、その価値が見直されるようになりました。
古民家を利用したホテルなどはその典型例です。蔵や老朽化した住宅をホテルに改装したら常に満室になっているというようなケースもあります。
更に、ホテルだけでなく、その物件の趣を生かし、店舗やレストランなどとして使用しているものもあります。
2018年6月に旅館業法が改正されたことも、古民家がホテルとして利用しやすい環境作りを後押ししました。それまでは、旅館やホテルを営むには、部屋数(旅館5室以上、ホテル10室以上)が必要とされていましたが、改正により部屋数の制限が無くなっています。
その結果、古民家の再利用は、京都や鎌倉などの有名観光地にとどまらず、地方都市まで広がりを見せています。
背景2:空き家の増加と社会的意義
平成31年4月26日に平成30年住宅・土地統計調査の概数が公表されました。
調査によると全国の空き家数はおよそ846万戸(前回調査では約820万戸)、全住宅に占める空き家の割合(空き家率)は13.55%(前回調査では約13.52%)となりました。それぞれ平成25年の前回調査の数値を超え、過去最高を記録しています。
少子高齢化社会と都市部への人口集中で、今後も地方を中心に空き家の増加が懸念される中、古民家への投資と再利用は、空き家対策と地方活性化の解決につながることから、政府や地方自治体も補助金制度を準備するなど、普及を後押ししています。
古民家投資のメリット
古民家投資は、インバウンドや法改正により取り組みやすい環境が整いつつあります。具体的なメリットはどこにあるでしょうか。
メリット1:投資費用を抑えることが可能
空き家の増加が社会問題となる中、不動産会社の仲介以外に、自治体が主体となって取り組んでいる「空き家バンク」など、物件の取得ルートはさまざまあります。
地方の物件であれば、土地代もそれほどかからず、更に、建物代金もほぼゼロですから、物件自体は格安に取得することが可能です。
もちろん、リフォーム費用はかかりますが、そのあたりを上手くすれば、古民家投資は、投資費用を抑えることができる不動産投資となります。
メリット2:補助金が利用できる場合がある
各市町村は空き家問題の解消に向けて、各種補助金制度を提供しています。補助金が利用できれば、投資費用を更に抑えることができます、
もちろん、全ての市町村に補助金制度がある訳でなく、補助金の対象も異なりますので、必ずしも補助金が利用できる訳ではありません。
自分が投資を検討している地域の自治体のホームページなどで、補助金制度の有無、対象や金額上限などの条件を調べておく必要があります。
メリット3:投資を通じて社会貢献できる
古民家投資は、投資収益を得るだけでなく、社会貢献ができる投資です。地域活性化、空き屋の有効利用など、社会問題の解決につながります。
このような投資を行っていると、同じような投資をしている投資家とのつながりができたり、社会的な地位を得られたりなど、思わぬ副次的なメリットを得られる可能性もあるでしょう。
古民家投資の注意点
注意点1:リフォーム費用
築年数が相当経過している古民家は、空き家の期間が長い場合もあり、購入してそのまま利用できるものは、ほぼ無いといっても良いでしょう。必ず、大規模なリフォームが必要になります。
DIYを趣味としている方であれば自分で済ませることもできるでしょうが、それ以外の方は、施工可能な職人を探す必要があります。
耐震性を確保したり、最新の什器設備を導入し、古民家の趣を残したままリフォームしようとすると、リフォーム費用が、新築並みにかかってしまうような場合もあります。
ただし、リフォーム費用をケチってしまうと、旅行者などの利用者を満足させることができず、稼働率につながりかねません。
実際にリフォーム後の古民家を自分の目で見ることと、事前に施工可能な職人につてを作り、物件取得検討段階で、リフォーム費用の概算を出してもらうえるようにすることが必要です。
注意点2:資金調達
古民家投資は、物件取得価格を抑えることができますが、リフォーム費用がそれなりにかかりますので、全額を自己資金で対応するか、もしくは、補助金を利用して、足りない部分を金融機関からの借入で賄う必要があります。
しかし、古民家自体は土地や建物の担保価値が低く、更に、古民家を旅館やホテルなどとして運営した実績がなければ、金融機関から資金を調達するのはかなりハードルが高くなってしまいます。
金融機関の審査は非常に保守的ですので、古民家再生事業は、それなりの実績が無いと理解を得るのは非常に難しいでしょう。
区分マンションへの投資であれば、不動産会社の提携ローンが利用可能ですが、古民家投資は資金調達環境が全く異なります。
注意点3:実際の運営
古民家を使って、自分でホテルや旅館、もしくはレストランや店舗を運営するには、それなりのノウハウが必要となります。
今は、旅行サイトなどに登録すれば、集客にはそれほど手間はかかりませんが、サラリーマンや公務員が副業として手を出すのは、なかなか難しいと思われます。
本業を通じて、その方面に知識やノウハウがあったり、運営に時間をかけることができる場合は良いですが、そうでない場合は、運営は外部業者に完全に委託し、自分はあくまでも古民家のオーナーとして賃料収入を得る形式でないと厳しいでしょう。
まとめ
古民家投資は、地方の良き時代を懐かしむレトロブームの側面もありますが、空き屋や地域活性化などの問題を解決するための社会貢献にもつながります。
不動産投資を単純な資産運用として考えるのでなく、不動産の有効活用を楽しみたい、社会貢献もしてみたいという方は、一度、検討してみるのも良いと思います。