不動産投資を検討する際、投資対象は区分所有のマンションかアパートで悩む方も多いでしょう。区分所有マンションはローンが調達しやすいなどのメリットがありますが、収入や自己資金に余裕がある方は、利回りが高いアパート経営も選択肢に入ってきます。アパートのように、それなりに規模や部屋数があると、副業よりもむしろ本業として暮らしていけるようなイメージがありますが、実際にはどの程度の収入が得られるのでしょうか。ここでは、アパート経営の収支・キャッシュフローについて解説して行きます。
アパート経営の収入と支出について
アパート経営は、区分所有のマンションより一般的には利回りが高く、底地も含め、まるまると自分の資産となるので、達成感が高い投資と言えましょう。また、部屋数が複数あるので、本格的な大家業のような感じがしますが、不動産投資ですので、収入もあれば当然支出もあります。家賃収入などから経費となる支出・税金などを差し引いて考える必要があります。
収入項目
①家賃
アパート経営における収入は家賃収入がほとんどが占めます。基本的には、入居者の方から翌月分の家賃を月末までにオーナーの口座に振り込んでもらうようにします。もし、入金が確認できない場合は、入居者へ入金を自分で督促する必要があります。管理会社に賃貸管理を委託している場合は、管理会社が受領した家賃から管理手数料を控除した金額をまとめてオーナーの口座に入金してくれます。
②共益費・管理費
共益費・管理費は家賃の一部で、家賃として総額で受け取ることも、家賃・共益費(管理費)を別々に設定することも可能です。のちのち、共益費(管理費)の方が値上げしやすいと理由で分けている場合もありますし、下の礼金・更新手数料は家賃の金額がベースとなるので、この受取額を大きくするために、家賃一本で表示するオーナーもいらっしゃいます。共益費と管理費の違いはありません、どちらを使うかはオーナーが決めることができます。
③礼金・更新手数料
礼金は、オーナーと入居者が賃貸借契約を新たに締結した時に、入居者がオーナーに支払う謝礼金です。更新手数料は、契約更新時に入居者がオーナーに支払う、礼金的なものです。こちらは、敷金とは違い返還する必要の無い、収入です。一般的には、礼金は家賃の1~2ヶ月、更新手数料は家賃の1ヶ月が相場です。しかし、最近では入居者募集を有利に進めるため、礼金・更新手数料を取らない物件も増えて来ています。また、賃貸募集や管理を不動産会社に委託する場合、礼金をが仲介手数料に充当したり、更新手数料の大部分を事務委託手数料として支払ったりしますので、オーナーの手元には残りにくい収入と言えます。逆に言えば、入居者募集に競争力があるアパートを自分で管理していれば、礼金・更新手数料収入はかなりの臨時収入と期待できます。
④その他(駐車場賃料など)
郊外のアパートですと、敷地の一部を駐車場として貸していることがよくあります。入居者に貸していれば家賃と一緒に入金されますし、外部の方に貸していれば、家賃のように翌月分を当月に振り込んでもらいます。最近は車を所有しない方も増えてきたので、駐車場に空が目立つようになって来ました。駐車場も含めて満室想定で収支を考えている方もいらっしゃいますが、駐車場の稼働率はよりかために計算する方が良いでしょう。その他、空いたスペースに飲み物の自動販売機を置いたりする方もいらっしゃいます。
この他、オーナーは入居者から敷金を預かります。通常、家賃の1~2ヶ月分ですが、家賃などと一緒に入金されるため、収入が増えたと錯覚してしまうオーナーもいらっしゃいます。しかし、敷金は退去時に入居者に返還する、あくまでも預り金です。収入とは区別して計算することと、資金自体も別に管理しておく方が安全です。
支出項目
①ローン金利・元金
アパート購入の際に金融機関からローンを調達した場合、毎月、元金の返済と利息の支払いが必要となります。上記の収入がローン金利・元金の支払い原資となりますが、足りない場合は自己資金から支払う必要があります。こちらの支払を遅延してしまうと、高い遅延損害金が発生したり、場合によっては、中途での返済を求められることにもつながりかねませんので、金融機関への支払が遅れたりしないようにしましょう。
②管理委託料
アパートの管理はいろいろと面倒なことも多いです。掃除に始まり、入居者の募集・退去の立ち会い、防火設備の点検立ち会いなど多岐にわたります。これを全て不動産管理会社に委託してしまうこともできます。管理料の相場は賃料の2~5%で、毎月支払います。賃貸管理も同時に委託する場合は、入居者からの賃料から管理委託料を差し引いて、オーナーに送金してきます。管理を自分で行えば、かなりの費用が節約できますが、自宅近くにアパートを所有しない限りは、自分で管理をするのは大変難しいでしょう。管理状況は入居率に繋がってきますので、必要経費として考え、安心できる業者に委託するようにしましょう。
③仲介手数料
仲介手数料は、空室の募集にあたり、不動産会社が入居者を見つけてくれた場合に支払います。通常、家賃の1ヶ月分です。自分で入居者を見つけてくれば仲介手数料は発生しませんが、契約行為も含めて、自分で行うのは難しいので、不動産会社にお願いするしかありません。入居者から礼金を受け取ることができれば、仲介手数料に充てることもできますが、最近は入居者獲得のために礼金ゼロとする場合もありますので、そうなると自分で負担するしかありません。一ヶ月めの家賃は仲介手数料に消えると考える方が良いでしょう。
④建物修繕費
アパートの損傷個所や劣化した部分を補修・修繕した場合に発生するのが建物修繕費です。廊下の電球が切れれば交換が必要ですし、外壁や屋根が経年劣化で傷めば、補修が必要となります。居室内でも、給湯器やエアコンなどの設備の交換が発生しますし、退去後はクリーニングなどの原状回復費用もかかってきます。
⑤保険料
所有しているアパートに対する火災保険・地震保険・損害保険で、万が一に備える必要があります。一般的にはローン契約で保険への加入が義務付けられ、保険代金の受け取りに関して金融機関からの質権が設定されます。年単位での加入も可能ですし、10年分を一括して支払えば安くすむような契約もあります(途中での解約もできます)。
⑥税金
アパートを所有していれば、土地・建物に対して、固体資産税・都市計画税を支払います。年に一回、納付書が届きますので、一括納付か分納を選択し、金融機関にて支払います。それ以外にも不動産収入からそれに必要な経費を控除した所得の金がによっては、確定申告後に税金を支払う(または還付を受ける)ことになります。
⑦その他費用
空室物件の賃貸人の募集に関する広告費、町内会費、共用部分の水光熱費、自分で物件を見に行く際の交通費など、もろもろの経費が他に発生します。
アパート経営と税金
アパート経営でかかって来る税金について解説して行きます。
税金の種類とタイミング
①取得時にかかる税金 登録免許税、印紙税、不動産取得税
印紙税は契約書に貼付しますので契約時に、登録免許税は所有権移転登記・抵当権設定登記の際に、不動産取得税は所有権移転登記後、2~3カ月後に支払います。
②毎年かかる税金 固定資産税・都市計画税、所得税
固定資産税・都市計画税は、毎年4~6月に自治体から税額の通知と納付書が郵送されます。一括で納付することも、年4回に分けて納付することもできます。口座振替による支払いも可能です。所得税は、確定申告後、2か月以内に支払います。
確定申告について
家賃収入がある方は、給与収入と合算し、所得を計算して、確定申告を行います。通常、一般のサラリーマンであれば、所得税は給与天引き・年末調整などにより、会社がその支払いをしてくれて、確定申告の手続きを取ることはありませんが、副業として、不動産投資を始め、不動産所得が20万円を超えている場合は確定申告をしなければなりません。20万円以下であれば確定申告の義務はありませんが、確定申告をする方がメリットが大きいので確定申告をすることをお勧めします。
不動産所得の20万円のラインですが、これはあくまでも「所得」であって、「収入」ではありません。不動産所得=総収入金額-必要経費 で計算されます。必要経費には、ローンの元本返済は含まれませんが、減価償却が含まれるので、場合によっては不動産所得が赤字(マイナス)になることもあります。その場合は、給与所得とからマイナス分を差し引くことができ、その結果、税金が戻ってくることもあります。
確定申告は自分でもできますが、心配な方は税理士さんに手続きをお願いしましょう。
具体的なシミレーション
部屋数10室、家賃8万円のアパートを購入するとします。
年間家賃は10室×8万円×12か月で960万円です。
しかし、アパートには一定の空室が発生すると想定したら良いので、空室率10%とみれば、
かために見た年間家賃は960万円×90%の=864万円 となります。
864万円の収入があれば、家賃収入だけで暮らしていけそうな感じがしますが、ここから上記で説明した「支出項目」が差し引かれます。
アパート経営の一般的な経費率は総賃料の30%程度なので、ここから計算すると
960万円×30%=288万円
また、年間家賃960万円の物件をグロス利回り約10%で1億円で購入したと仮定しましょう。
その場合、8,000万円を金利2.5%、期間20年のローンを借りて、元利均等返済に支払いをすると、年間の支払額は約430万円となります。
従って、手元に残る金額は、年間家賃-経費-ローン支払いで
864万円-288万円-430万円=146万円 となります。
146万円の手残りだけでは、家賃収入だけで暮らしていくのは難しいですね。もちろん、全額自己資金であれば、金融機関への支払い約430万円分がまるまる手元に残るので、家賃収入だけで暮らしていくのも無理ではありません。
また、アパート経営は建物(木造造り)の耐用年数が短く、減価償却費を多くとることができますので、キャッシュフローは黒字でも、税務上の収入は赤字となることもあり、本業の給与所得と通算し、所得税を節税する効果も期待できます。
まとめ
アパート経営は不動産投資の中でも比較的利回りが高い投資ですが、他の不動産投資同様、管理費などの経費もそれなりにかかってきます。ローンを利用すれば、元金返済・利息の支払いもありますので、アパート経営だけを本業にするのは、なかなか難しいでしょう。あくまでも、副業としての不動産投資と考える方が良いでしょう。