【税理士による解説】離婚時の不動産の処理について~売却すべきか、維持するべきか~

離婚時に、今住んでいるマンションをどうするかは悩ましい問題です。一般的な選択肢としては、「マンションを売却する」「どちらか一方が住み続ける」「賃貸物件にして収入を得る」の3つがあります。

マンションを売却してしまうと引越しを余儀なくされ、生活環境が大きく変化するため、住み続けたいと思う人も多いでしょう。

実際、マンションに住み続ける選択をした場合は、生活環境の変化によるストレスが抑えられたり、引越しによる金銭面の負担を減らしたりできるというメリットがあります。

しかし結論からいうと、離婚時にはマンションを売却し、現金化して財産分与をしておくべきです。

なぜならマンションを残しておくと、住宅ローンの支払いや財産分与でトラブルが起きやすいためです。

マンション売却のフロー

1.マンションの名義人を確認

マンションの売却時にはまず不動産の名義人を登記簿謄本で確認します。

一般的には夫婦のうち、収入の多い人の名義になっていることが多いですが、共有名義になっている事もあります。

2.マンションの価値を査定する

マンションの現在の価値を把握します。

不動産の価値は変動するため、購入時の価格よりも高くなっている場合もあります。

そのため複数の不動産会社に査定の依頼をしたり、不動産鑑定士に鑑定してもらったほうが適正な価格が算定できます。

財産分与をする際は、現在の価値をもとにして財産を分け合うため、正確な価格を把握しておくことが重要です。

3.住宅ローンの契約名義人と残債を確認する

住宅ローンの残債がある場合は、住宅ローンの契約名義人と残額及び連帯保証人を確認します。

なお不動産の名義人と住宅ローンの名義人は異なる場合があるので、住宅ローンの契約内容は、借り入れをしている金融機関で確認します。

住宅ローンの契約内容や残額によって、財産分与の結果は変わってくるため、あらかじめ把握しておくことが重要です。

4.売却方法

住宅ローン残債がない場合

住宅ローン残債がないマンションを売却する場合は、主に「不動産仲介」か「不動産買取」のいずれかの方法となります。

  • 仲介により売却する

不動産仲介会社に購入希望者との仲介をしてもらうのが一般的な売却方法です。相場に近い価格で売却できる可能性が高く、財産分与の取り分も増えます。

一方で、買主が見付かるまで売却できないため、仲介をしてもらう不動産会社と媒介契約を結び、売却活動を行う必要があるため時間と手間がかかります。

  • 不動産会社に買取してもらう

マンションを早く売却したい場合は、不動産会社に直接買取してもらう方法もあります。買主を探す時間と手間、及び不動産会社に支払う仲介手数料がかかりませんが、一方で相場の7割~8割程度に売却価格が下がる可能性があります。

マンションの査定額や住宅ローンの残債を比較し、マンションの売却額より住宅ローンの残債のほうが少ない状態をアンダーローン、多い状態をオーバーローンといいます。

アンダーローン(住宅ローン<マンション売却額)の場合

ローン残高がマンションの売却額より小さい場合、売却益でローンを一括返済できます。

このようなアンダーローンの状態では、ローン残債がない場合と同じ売却方法が利用可能です。

オーバーローンの場合(住宅ローン>マンション売却額)

ローン残高がマンションの売却額より大きい場合、売却後も残債が残ってしまいます。このようなオーバーローンの状態では、残債を自己資金で一括返済できる場合を除いて、通常の売却方法は利用できません。オーバーローンの場合、以下の4つの方法が考えられます。

  • 住宅ローンの残債を夫婦の自己資金で支払って売却する
  • 任意売却を行って、住宅ローンを完済する
  • 住宅ローンの名義人が家にそのまま住み続け、ローンの完済まで支払っていく
  • 住宅ローンの名義人ではない人が家を引き継いで住み、ローンは家を出た名義人が完済するまで払い続ける

上記の4つの方法のうち、売却をする場合は、上から2つのいずれかの方法を取ります。

任意売却では、債務者として住宅ローンを借りている金融機関から同意を得て、住宅ローンが残っている状態で不動産を売却に出します。

任意売却のメリットは、住宅を売却する条件に自分の希望を反映できたり、競売と比較して高い売却金額で売れる可能性があります。

一方、下2つの方法はマンションを売却せずにローンを返済していく方法です。

住宅ローンの名義人もしくは、名義人でない人が家にそのまま住み続けて、住宅ローンの名義人が住宅ローンを完済するまで支払いを続けていきます。

そして、マンションの売却は、住宅ローンを完済してから行います。

離婚時にマンションを売却する際のトラブル事例

1.単独名義のマンションを勝手に売却される

マンションが単独名義の場合、配偶者の同意がなく売却が可能なため、別居中に勝手にマンションが売却される可能性があります。

そのマンションが結婚後に購入したものであれば、配偶者は売却代金の半分をもらう権利があります。

このような勝手な売却を防ぐ方法として、「処分禁止の仮処分」があり、裁判所に申し立て、裁判所が認めた場合、単独名義であっても不動産を勝手に売却することはできなくなります。

2.売却方法や価格で意見が分かれる

マンションの売却では、不動産仲介、不動産買取、任意売却のようにいくつかの方法がありますが、どれを選ぶかで夫婦の意見が合わない場合があります。

素早い現金化を重視するか、売却価格を重視するかによって、選ぶべき売却方法は異なります。

どうしても意見がまとまらない場合は、弁護士を間に入れるか、離婚調停という方法もあります。調停で合意した内容は判決と同様の効力があり、強制的に離婚トラブルを解決する手段として有効です。

3.財産分与の期限が過ぎてしまう

離婚の財産分与の期限は離婚後2年以内であり、それを過ぎると家庭裁判所への申し立てができなくなり、財産分与の内容に不満があったとしても、財産分与の請求はできません。

不動産仲介のような時間のかかる売却方法を選ぶ場合は、期間を重視して、適切に財産の価値を評価し、早急に手続きを進めることが肝要です。

離婚でマンションを売る際にかかる諸費用

1.仲介手数料

「不動産仲介」を利用してマンションを売却した際に、仲介してくれた不動産会社に支払う手数料です。仲介手数料の上限額は法律で定められており、売買価額が400万円以上の場合の金額の目安は以下の通りです。

仲介手数料=(売却額×3%+6万円)×消費税

2.印紙税

マンションの売買契約書に印紙を貼り付けることで支払う税金です。

印紙代はマンションの売却額によって異なり、500万円以上1億円以下の売却額であれば、印紙5,000円~3万円となっています。売買契約書は、売主および買主用に1通ずつ作成するために、売主と買主のそれぞれが保有する売買契約書分を各自で負担します。

3.登録免許税

売却するマンションの住宅ローンを完済し、抵当権を抹消する際にかかる税金です。抵当権抹消のため、不動産1物件につき、建物と土地のそれぞれに1,000円の登録免許税が課税されます。

また、抵当権抹消の手続きは司法書士に依頼することが一般的であり、その際に司法書士に支払う報酬も必要となります。

4.譲渡所得税

不動産売却時に利益が出た場合に、その所得に対して課税される税金です。譲渡所得税は譲渡所得に税率をかけあわせて算出され、譲渡所得は以下のように求められます。

譲渡所得=売却額-(購入額+購入時の諸費用+売却時の諸費用)-特別控除

5.引越し費用

マンションを売却する場合、引越しをする必要があり、その際の引越し費用がかかります。離婚時には、夫と妻がそれぞれ別の新居に引越すため、それぞれの費用がかかります。

売却しなかった場合

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1.そもそも売却できなくなる

マンションが夫婦の共有名義不動産だった場合、売却には共有名義人全員による承認が必要となるため、元配偶者と話し合いをすることになります。

共有名義とは、不動産の所有権を複数人で所持していることを指しています。また、共有名義不動産の売却や抵当権の設定などは、全員の同意が必要です。

つまり、後になって売却したくなっても、元配偶者の承認が得られないため売却できなくなる可能性があります。

また、離婚後に共有名義人の元配偶者が亡くなった場合、不動産の共有持分は亡くなった側の遺族が相続することになります。

相続により共有名義人が増えていくと、全員からの承認を得ることはより難しくなります。

2.住宅ローンの返済トラブル

住宅ローンの残債がある場合必ずしも夫婦で半分ずつ払う必要はありません。

住宅ローンの支払い義務は、あくまで住宅ローンの名義人にありますが、夫婦間の残債の割合によって支払額は決定されるのです。

また、離婚後も2人で住宅ローンを返済し続ける場合、元配偶者がローン返済を滞納しても気付くのが難しく、ある日突然、多額の請求が来るという恐れもあります。

3.財産分与が複雑

離婚時の財産分与では、資産を50%ずつ折半するのが一般的なので、マンションなどの不動産も財産分与の対象となりますが、マンション自体を分割することはできません。

この場合、1人がマンションに住み、マンションの価値の半分の金額をもう1人に現金で渡す方法が一般的ですが、住宅ローンが残っていると、残債を加味しながら分配となるため、非常に煩雑になります。

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