メタバース上の不動産(デジタル不動産)が高騰しているという話を聞いたことがありますか?
ネット上の世界ですが、2021年に約5億ドル(約600億円)の取引があり、2022年にはその倍の取引があるだろうと言われています。
まだ取引自体が始まったばかりのデジタル不動産ですが、メタバースの成長とともに、デジタル不動産自体の価格も上がって行くことになるでしょう。
しかし、仮想空間内の不動産の価値は、そもそもあるのでしょうか?
ここでは、不動産投資のプロが、現実上の不動産の価値が算定されるプロセスに基づき、デジタル不動産の価値について考えてみます。
現実上の不動産の価値算定方法
土地の価格を尋ねると、「坪〇〇万円」との答えが返って来るでしょう。では、その価格の根拠はどこにあるのでしょうか?
不動産の価値の算定方法には、「取引事例比較法」、「収益還元法」、「原価法」の3つの方法があります。
取引事例比較法
取引事例比較法とは、面積や立地、地域など、その不動産と同じような条件の不動産がどのような価格で取引されているかを比較し、更に、市場全体の動きや取引の時期なども加味して調整を行い、資産価値を算出する方法で、不動産の査定を行う際の基本的な方法といえます。
収益還元法
収益還元法とは、その不動産が将来生み出すと予測される純利益と現在の価値に基づき、収益価格を出し、査定価格を算出する方法です。
賃貸用不動産やアパート、貸店舗や貸し倉庫など、投資用不動産や事業用不動産の価格を査定する場合に有効な方法です。
原価法
原価法とは、その不動産を再度建築した場合の原価を出し、建築年数が経過したことによる価値のマイナス分を加味して原価を修正したうえで現在の資産価値を出す方法です。
不動産価値が安定・上昇するために必要な外部条件
では、上記で解説した不動産の価値が安定、更に、上昇するにはどのような外部条件が整ってる必要があるのでしょうか。以下に解説して行きます。
条件1:その不動産がある国や地域が安定していること
不動産に投資をする際、欧米先進諸国の都市とアフガニスタンやウクライナのような紛争地域、どちらを選ぶでしょうか?
殆どの方が、価格が何倍、何十倍が高くても、欧米先進諸国の不動産を選ぶと思います。それは、紛争や戦争が起こったり、災害が発生すれば、資産価値が大きく下落してしまうからです。
不動産は右左と簡単に移動することができませんから、その不動産が所在する国や地域の政治・経済が安定して運営されていること、また、周辺国との関係に問題がないことが必要不可欠です。
更に、洪水などの天災が起きないということも、不動産価値が安定・上昇するためには重要な要素となります。
条件2:不動産に関する権利が法律などで明確に保全されていること
不動産はどこかの国、地域に所属します。そしてその所有権、使用権はその国や地域で定められた法律によって違います。
例えば、中国の土地はすべて国が所有していますので、個人には所有権がなく、使用権のみがあります一方、日本は個人による所有権が認められているなど、私たちが当然と考えている法律や習慣は、国や地域によって実は異なります。
中国は経済大国ですので、地上権・使用権に関する規則が法律で定まっていますが、その歴史は浅く、法律が現在のように整備されてから、まだ40年も経過していません。国の政策によっては、突然、法律が変わるようなリスクもあります。
その国や地域の法律がしっかりと機能していて、権利関係が明確に法律で保全されていて、更に、合理的な理由なしに、所有者や使用者に不利な変更がされないことも重要な要素となります。
条件3:不動産に対する需要があること
不動産を所有する目的は、自分で使用するか、もしくは、人に使用してもらうことが前提となります。
つまり、その不動産を使用したいという需要が無いと、不動産の価値は安定・上昇しません。
都心の一等地と郊外の利便性の低い土地を比べれば、当然、都心の一等地の方が需要が高いので、不動産の価値は安定・上昇しやすいということになります。
デジタル不動産に照らし合わせて検証してみる
ここまで、現実上の不動産の価値の算定方法や、不動産の価値が安定・上昇するために必要な条件を解説してきましたが、これをデジタル不動産に照らし合わせて考えてみます。
その1:デジタル不動産の価値
現実上の不動産の価値算定方法として、取引事例比較法、収益還元法、原価法がありますが、デジタル不動産は、まだ取引事例が少なく、更に、建築コストの算定が難しいことから原価法というのも難しいので、収益還元法で価値は判断されることになるでしょう。
メタバースにおける、ショッピングモールのような仮想空間店舗を例に取って考えてみましょう。
ショッピングモールであれば、家賃収入が入りますが、メタバースへの参加人数が多くなり、それに伴って、モールに集まる人が多くなれば、各店舗の売上も増加し、最終的には家賃収入も増やることになります。
デジタル不動産も、生み出す収益が増えれば、現実上の不動産同様、その不動産が生み出すキャッシュフローを基にして算定される価値は上昇します。
つまり、ショッピングモールも値段が上がるということです。
仮想空間では、アバターが自分の分身となって行動します。アバターは、洋服も着ますし、バッグも持ちます。
アバターであっても、ブランド物の洋服や着せたり、バッグを持たせたいというニーズは既に起こっています。ルイヴィトンのバッグも売られていますし、なんと、偽物まで出回っています!!
このように、メタバースは、仮想空間ではありますが、現実上の経済活動とほぼ同じようなことが起こりつつあります。経済活動が活発になれば、デジタル不動産の価値は上がって行くことでしょう。
その2:仮想空間の運営が安定していること
仮想空間は法人個人を問わず、誰かが運営しています。
仮想空間において、安定してビジネスが行われるためには、実社会と同じようにその運営がしっかりとしていて、さらにそこで使われる通貨が安定していることが必要不可欠です。
そうれなければ、その仮想空間にアクセスする人は増加せず、経済活動も活発にならず、そこにあるデジタル不動産の価値も不安定になります。
メタバース市場におけるプレーヤーは、ゲーム・映像企業、SNS系の大手企業、新興ブロックチェーン企業などがありますが、どの企業も参入してからの期間は長くないので、運営における優劣は、今の段階ではつけにくい状況にあります。
運営者が仮想空間で起こるトラブルなどに即時に公平に対処でき、ルール作りができる環境が整えば、デジタル不動産を安心して取引することができるでしょう。
その3:権利が明確に保証されていること
仮想空間では、暗号資産(仮想通貨)で使われているブロックチェーン技術が導入されています。この技術で、瞬時にかつ低コストでその権利関係は明確に記録されます。
権利関係の記録だけで言えば、現実社会の不動産登記と同様なことが可能にはなっているでしょう。
しかし、記録はされていても、その権利を移転したり、貸したり借りたりすることに関しては、現実社会のように、確立された法律がありません。
仮想空間では、そのデジタル不動産を複製してしまうことも技術的には可能です。現実社会では、土地は有限でしたが、仮想空間内では、無限に存在させることが可能ですので、権利関係に関する考え方も変わって来るでしょう。
運営者によっては、デジタル不動産の複製を規則で禁止するような動きも出てきているようです。
また、暗号資産では、取引業者に預けていた資産が、盗まれてしまうようなことが起こりましたが、仮想空間においても、自分が所有しているデジタル不動産が、第三者からの攻撃を受けて、その記録が勝手に他人に移動したり、消滅してしまうこともあるでしょう。
その場合、運営者が犯人の捜索をしてくれたり、損害を補償してくれるような仕組みは、まだ確立されていません。
いずれは、その対処方法も確立されて、損害保険のようなシステムも含めて、いろいろなルール作りがされて、権利を保護する動きは出てくるでしょう。
その4:デジタル不動産に関する需要があること
メタバースは、まず、ゲームの世界で多くの利用者を集めまていますが、代表的な「フォートナイト」の利用者数は3億5,000万人とアメリカの人口を越えています。
フォートナイト以外にも、「ポケモンGo」や「あつまれどうぶつの森」もメタバース系のゲームです。
ビジネス系のメタバースもあり、多くの大企業も、試行錯誤を繰り返しながら、ビジネスチャンスを探っています。
前述した、ルイヴィトン以外にも、フェラーリは、フォートナイト内で新型車を販売したり、ナイキは他のメタバースで、仮想ショールームを開設するなどしています。
今後もメタバースは急激に拡大することが予想されていて、今後10年間で全世界でユーザー10億人、1兆ドルを超える収益を生み出す市場となると言っている調査結果もあります。
デジタル不動産に関する需要に関しては、メタバースの拡大に比例して伸びるものと思われます。このあたりの懸念は、ありませんが、当然、人を集められるメタバースもあれば、人気が出ないメタバースも出てきますので、どのメタバースを選択するかが重要になって来るでしょう。
まとめ
まずは、これまでの要点をまとてみます。
- 不動産の価値の算定方法にはいくつかの種類がありますが、デジタル不動産の価値は、収益還元法と呼ばれる、その不動産が生み出す純収益に基づき、算出されることになるでしょう。
- デジタル不動産の価値が安定・上昇するには、まずは、メタバースの運営が安定していること、更に、メタバースでのデジタル不動産の権利などが規則によって確保されることが必要不可欠です。この点については、まだ未整備な部分も多いですので、これから、ルール作りされることが期待されます。
- 更に、不動産に対する需要が増えることも必要ですが、これについては、今後、成長が予想されるメタバースにおいては、懸念は無いと思いますので、集客力のあるメタバースを選択することが重要でしょう。
実際に、デジタル不動産に関しても、仲介業者や開発業者が出てきており、取引が活発に行われ始めています。今後、メタバース市場の拡大により、デジタル不動産市場も成長するでしょう。
しかし、暗号資産同様、いろいろと問題は出てくるはずです。その問題が大きい場合は、デジタル不動産の価値が暴落する局面もあるでしょう。しかし、長期的に見れば、多くの問題を解決しながら安定したメタバース、安定したデジタル不動産市場が確立され、その資産価値は上昇すると期待できます。