2022年2月のロシアによるウクライナへの軍事侵攻によって、世界の経済状況は大きく変化しています。
軍事侵攻開始にともない、ロシアからの輸出に頼っていた、石油・天然ガスなどのエネルギー関連物品に加え、小麦などの穀物市場が急騰し、欧州、米国、日本など世界の主要市場の株価は、急落する場面もありました。
軍事侵攻開始から約1ヶ月が経過し、市場は落ち着きを取り戻しつつありますが、アメリカではインフレの兆候が出てきていることから、当初の想定よりも急ピッチで政策金利の引き上げが行われようとしています。
ウクライナ、ロシア、アメリカなど、日本から離れた場所で起きていることですが、日本に住んでいる我々にも影響は確実に出てくるでしょう。特に、不動産価格については、更なる上昇の原因となると考えられます。
この記事では、軍事侵攻がなぜ日本の不動産価格を上げる原因とともに、今後、起こりうるリスクにどう対処していくかを解説して行きます。
石油、天然ガスや小麦の供給不足発生により、世界的にインフレ懸念が高まる
ウクライナはロシアに接する東ヨーロッパに位置していて、地理的には、日本から遥か遠い存在の国です。
ウクライナの経済規模はGDPで約1,500億ドル(世界55位)、ロシアは約1兆7,100億ドル(世界11位)です。世界のGDPが約約85兆円ドル、日本は約5兆4,000億ドル(世界3位)ですから、この2か国が、世界経済に直接与える影響はそれほど大きくないでしょう。
しかし、ロシアは世界第2位の石油輸出国であり、世界の輸出量の約13%を占めます。また、天然ガスの輸出は世界第1位です。
更に、小麦に至ってはロシアは世界第1位、ウクライナは世界第5位の輸出国ですから、世界の穀物の供給に大きな影響があります。
ウクライナ侵攻前から、ガソリンや食料品など、身の回りのあらゆるものが値上げになっていましたが、ロシアへの経済制裁による輸出減少とウクライナにおける農作物収穫の減少が、このインフレの流れを加速させる要因になる懸念が高まっています。
インフレ対策による政策金利アップは、最終的に景気後退につながる
コロナ禍からの経済再生を目指し、各国の中央銀行は、2020年くらいから大規模な金融緩和政策を取っていました。この金融緩和政策は一定の効果を上げ、むしろインフレに転じ始めたことから、アメリカの中央銀行(FRB)は、今年(2022年)から、金融政策を転換し、緩和から引き締めに移行し、政策金利を少しづつ上げていくことで、インフレを鈍化させる動きをすると予想されていました。
しかし、この軍事侵攻の影響により、インフレのスピードが思いのほか早そうなこともあり、アメリカは当初の計画よりも速いペースで、利上げを実施して行くようです。
アメリカが利上げに動けば、他の国の中央銀行も追随する可能性があります。利上げになれば、企業や個人が資金を借りて投資したり、マイホームを買う意欲が減退しますので、物価は落ち着きを見せるとは思いますが、経済活動は収縮するので景気後退に向かう可能性は高くなります。
日本は金融政策を転換して、利上げに追随する可能性は、今の時点では低く、金融政策でインフレを抑え込むことはしないと見られています。しかし、日本はエネルギー資源や穀物などを大きく輸入に頼っていて、アメリカのように自国での生産はできませんし、円ドル相場もついに120円を突破するなど、このままの金融政策では、インフレの影響はさらに深刻になって行くでしょう。
日本の不動産市場への影響について考えてみる
ここまで軍事侵攻により、インフレが加速する懸念があることを説明してきましたが、日本の不動産市場にはどのような影響があるのでしょうか。
まずは、現状を整理し、そして、今後の動きを考えてみましょう。
その1:コロナ禍での日本の不動産市場
日本の不動産市場はコロナ禍によって、人の流れが止まったことから、オフィス、ホテル、商業施設などの分野で、需要が大きく減退し、不動産取り引き自体も一時は大きく落ち込みました。
オフィスは2020年に新規竣工物件が増え、需給のバランスが悪くなったところに、コロナ禍で企業の拡張移転意欲が弱くなり、更に、在宅ワークが進み、大型のオフィスを求めない流れも出てきたことから、賃貸成約率や成約坪単価は下落傾向にあります。
住宅は、こちらも在宅ワークが進んだ影響で、郊外で広めの住宅を取得する動きが広がり、都内においては人口が流出に転じた地域もありました。
このように、コロナ禍は、日本の不動産市場に対して、全般的にはマイナスのインパクトを与えています。しかし、当初のパニックが収束すると、各国政府、中央銀行は大幅な金融緩和政策を取り、世界的に投資マネーが溢れたことから、都心部の物件などに対しては、更に買いニーズが高まっていて、不動産価格を下支えしています。
その2:日本の不動産価格はインフレの影響で上昇する可能性が高い
前述した通り、世界経済全体における、ウクライナ、ロシアの経済規模はそれほど大きくありませんが、石油、天然ガスや小麦などエネルギーや穀物の分野においては、かなり大きなインパクトを与えています。
日本においては、長くデフレ経済が続いていて、なかなか日銀の物価目標に届かない状況が続いていますが、今年に入ってからの原油高に加え、軍事侵攻の影響とここ最近の円安で、インフレ懸念が起こっています。
過度なインフレを抑えるために、各国中央銀行は金利を上げますが、インフレは相対的に貨幣価格が下落しモノの価格が上がります。その場合、一般的に不動産価格も物価とともに上昇します。
インフレ時には現金を保有するより、モノで保有するほうがよいと言われていますが、不動産はそれに当てはまります。
今回の軍事侵攻については、過去の例に照らし合わせて考えてみると、資金負担も多く、経済制裁の影響も大きいことから、予想よりも早い段階で停戦などで決着すると予想されます。
そうなれば、インフレは一段落するかもしれませんが、今回の軍事侵攻をきっかけに、各国がエネルギー政策を大きく転換させることで、資源価格は高止まりし、インフレの流れは止まらないと個人的には考えています。
日本はインフレになっても、日銀が政策金利の大幅な引き上げを行う余力は小さく、インフレを抑え込む力は弱いものと考えられますので、インフレの影響を受けやすい日本の不動産価格は上昇する可能性が高いでしょう。
今後、不動産投資において注意すべきポイントと対策
軍事侵攻により加速するインフレの影響で、日本の不動産価格の上昇が予想される中、どのようなリスクに気を付けながら、どのような不動産投資をしていくべきでしょうか。
その1:インフレリスク
対策
インフレにより不動産価格は上昇しますので、不動産への投資はお勧めということになります。
しかし、当然、地域や物件によって値上がりの差は出ますので、全ての不動産が同じように値段が上がるということではありません。
インフレを念頭に不動産を投資するのであれば、インフレの波に乗りやすい物件を購入すべきでしょう。世界中の投資家にとって、ストライクになるような、ど真ん中の物件に投資するべきと考えます。
具体的に言えば、都心部で築年数が浅い物件が良いでしょう。郊外の物件や、築年数が古い物件は利回りは高いものの、投資家の好みが分かれるところもあります。
その2:地政学リスク
日本はロシアと海上ではありますが、国境を接しています。この軍事侵攻で地政学リスクを強く感じました。
もしかしたら、日本の周辺海域、または、台湾や朝鮮半島でも、今回のウクライナのような軍事衝突が起こる可能性はあります。
今回の軍事侵攻は、プーチン政権の崩壊とロシアの民主化にまで波及する可能性もあります。そうなると、中国や北朝鮮などがどのような行動を取るかは、とても心配です。
地政学リスクが顕在化すれば、移動が不可能な不動産は大きな影響を受けます。
対策
地政学リスクを避けたいのであれば、現物の不動産投資せずに、投資信託やREIT(上場投資信託)への投資を行いましょう。
投資信託には世界中のREITに投資をして、地政学リスクを分散しているものもありますし、REITであれば、インフレによる価格上昇の恩恵を受けながら、更に、何かが起これば、市場で売却してしまうことができます。
その3:金融政策転換リスク
日銀は、2%の物価目標を達成すべき、異次元緩和政策を継続しています。しかし、この予期せぬインフレと、更には日米の金利差による円安の進行を止めるには、金融政策を転換して金利を引き上げるしか方法がないと指摘する識者も出てきています。
金融政策の転換により、金利が引き上げられる場合、不動産価格には大きなマイナスのインパクトになります。
対策
金利上昇局面においては、不動産投資は短期投資で値上がり益を取って行くのが望ましいところですが、副業で不動産投資を行う方にとっては難しいと思います。このような時期は、一旦、投資を見送って市場が落ち着くのを待つというのも手でしょう。
もし、手元に保有物件があったり、ローンを借りているのであれば、売却するというのも一つの選択肢です。また、ローンを変動金利で借りているのであれば、繰り上げ返済をしてローンを残高を減らしておくか、早めに固定金利に切り替えて、金利上昇リスクに備えましょう。
まとめ
遠い東欧で起きている軍事侵攻ですが、意外にも、日本の不動産価格を上昇させる要因にもなっています。
不動産投資を今まさに検討されている方は、物価・金利などの動向をウォッチして、タイミングや投資する物件を選ぶようにして下さい。