投資用不動産に関して、購入するためのセミナーや記事などはよく目にしますが、売却について知る機会はあまりないと思います。
しかし、購入するのであれば、当然、売却についての知識も得ておく必要はあるでしょう。この記事では、投資用の不動産を売却するタイミングやその方法、注意点などを解説して行きます。
不動産投資は基本的には長期保有をお勧めする三つの理由
株式や債券であれば、売ったり買ったりすることで、利益を稼ぐ投資をすることができますが、不動産投資は、基本的には、売買をせずに長期保有することをお勧めします。
従って、投資戦略は、長期保有しても大丈夫な物件を選定するというところから始まります。ではなぜ、長期保有なのでしょうか?理由は以下の通りです。
理由1:不動産は取引にかかる費用が高い
株式投資であれば、ネット証券を利用すれば、何千万円の株式を売買しても、取引手数料は1万円もかかりません。しかし、不動産は、仲介手数料、登記費用、税金など、最大で売買代金の5%程度が取引コストがかかってしまいます。
購入時よりも、売却時の方が一般的には、手数料は少なく済みますが、買ってすぐ売ると、合計で最大約10%の取り引きコストがかかる計算になります。その場合、3,000万円で物件を購入したのであれば、3,300万円で売って、トントンということです。
このように、不動産取引は取り引きにかかる費用が高いことから、売買を繰り返すのには向いていません。従って、長期投資が基本ということになります。
理由2:不動産は値動きが緩やか
株式は値動きが多く、一日で10%くらい値段が動くこともあります。この値動きを利用して売却益を稼ぐことができますが、不動産の価格の動きは緩やかで、購入した次の日に価格が大幅に上がるなんてことは期待できません。
もちろん、市場価格より安く買えたのであれば、すぐに売却益を稼ぐことができますが、それはプロの世界です。
不動産相場の上昇時期であっても、理由1で説明した、取引コストをカバーするにも、最低でも1年、場合によっては数年はかかるでしょう。
理由3:不動産は相対での取引のため時間と手間がかかる
不動産取引は、取引市場が無く、取引相手を探してきて、個別に売買に関して交渉をするため、自分の売りたいタイミング、価格で取り引きができるとは限りません。
株式投資であれば、スマホで簡単に取引を執行することができますが、不動産取引は、取引市場がないため、取引相手を見つけるのに、準備や時間がかかります。売却をしようと決めてから、売却が完了するまで、早くても一ヶ月くらいはかかるでしょう。
しかも、取り引き相手が条件交渉をしてくる場合もありますので、希望通りに売却が果たせないこともあります。
投資した不動産を売却するタイミング6例
不動産投資は長期保有が基本で、あまり売買を繰り返すことはお勧めしませんが、売却することでメリットがあったり、リスクを回避できるのであれば、売却という手段も選択肢の一つになります。
では、どんな時が不動産を売却するのに適したタイミングなのでしょうか。六つの例を紹介して行きます。
タイミング1:入居者が入ったとき
入居者がいる物件はオーナーチェンジ物件として、購入時から家賃収入が入るため、投資家からのニーズが高い物件です。
逆に、空室期間が長い物件は、募集家賃で入居者が決めらないリスクもありますので、足元を見られがちです。
従って、空室期間が6ヶ月以上あり、ようやく入居者が見つかった物件であれば、売却するタイミングと言えます。
ただし、以下で紹介するファミリータイプのマンションは、違う傾向にありますので、ご注意ください。
タイミング2:空室になったとき
ファミリータイプのマンションは、投資で購入するよりも、むしろ自分で住みたいために購入する人の方が多いでしょう。そのため、ファミリータイプのマンションは、賃貸中よりも、むしろ空室の方が高く取り引きされる傾向にあります。
従って、ファミリータイプのマンションを保有している場合は、入居者が退去して空室となったタイミングが売り時と言えるでしょう。
タイミング3:家賃相場が下がっているとき
物件価格は、家賃に大きく影響を受けます。特に投資用の不動産は、利回りが重視されるため、よりその傾向が強く出ます。
現在、都内の好立地の物件であれば、ネット利回り(家賃から管理費などを控除した金額)は4%くらいが基準ですので、月10万円のネット家賃が取れているマンションを利回りから評価すると以下の通りとなります。
10万円×12ヶ月÷4%=3,000万円
しかし、これが月9万円に下がると、どうなるでしょうか?
9万円×12ヶ月÷4%=2,700万円
その差は、3,000万円‐2,700万円=300万円です!!
家賃が1万円下がると、利回り4%基準の場合は、物件価格に対して300万円のインパクトがあります。
築年数が経過すると、周囲に競合する新築物件なども出てくるので、どうしても家賃は下がる傾向にあります。しかし、入居者がいれば、すぐに家賃が下がることはありません。
家賃相場下がっていて、入居者の家賃が周辺に比べて少し高いと感じたら、売却のタイミングと捉えても良いでしょう。
タイミング4:築年数が一定期間を経過したとき
築年数が経過している建物は、当然ながら修繕費が多くかかってきます。マンションであれば、管理費や修繕積立金が値上がりすることもあります。
また、築年数が経過している物件には、金融機関が長期(最長35年)のローンを付けないことから、築20年を超えてくると、だんだんと買い手が少なくなってきます。
もちろん、都心の駅近立地の物件であれば、希少性がありますので、築年数が経過しても、逆にプレミアムが付くようなものもあります。
しかし、それほど立地などに特徴が無い物件であれば、築20~25年をめどに売却してしまうのも一つの手段です。
タイミング5:金利が上昇しそうなとき
金利上昇局面では、インフレによる不動産価格の上昇が期待できますが、同時にローン金利も上がるので、変動金利で借りている場合は、支払利息が増えてしまいます。
金利が上昇しても家賃は同じようには、あがりません。そもそも、家賃改定が可能なタイミングは、通常、2年に一度の更新時のタイミングに限られます。
そのため、金利が上がれば、家賃利回りとの差が取りにくくなるので、一時的に投資用不動産の需要は低迷してしまうので、金利が上昇しそうであれば、売却のタイミングとなります。
タイミング6:節税の効果が無くなったとき
不動産を節税目的で購入される方もいるでしょう。築年数が22年以上の木造アパートに投資をすれば、建物部分の減価償却を大きく取ることができ、節税効果を得ることができます。
しかし、減価償却が完了してしまうと、経費が大幅に減少してしまうので、減価償却が完了したらその物件は売却してしまい、次の物件に入れ替えるタイミングとなります。(ただし、以下で説明する長期譲渡所得と短期譲渡所得について、注意する必要があります)
不動産売却の手順
それでは、実際に不動産を売却する流れについて解説して行きましょう。
手順1:不動産を売却する目的を整理し、目標時期や価格を決める
まずは、不動産を売却する目的をはっきりとしましょう。上記の6つのタイミングのように、売却することでメリットを取るのか、もしくは、リスクを回避するのかなど、明確にすることで、売却すべき時期や価格が明確になります。
インターネットでだいだいの相場を調べて、自分の物件がいくらで売却できそうか、その価格でだいたいどれくらいの収益・損失が出るのか、ローンを返済することができるか、できない場合は、残りの資金はどうするかなどをはっきりとさせておきましょう。
中古マンションの価格であれば、以下の「イエシル」に会員登録すると、マンションの部屋ごとの価格を知ることができます。あくまでも参考価格ですが、目安にはなるでしょう。
手順2:資料を準備して、不動産会社に相談する
そのまま不動産会社に相談しても良いですが、資料を準備して相談する方が、話しが早く正確に進みます。
必要な資料は以下の通りです。
- 登記簿謄本
- 固定資産税納税通知書、固定資産税評価証明書
- 管理規約(マンションの場合)
- 管理会社から毎月送られてくる資料
- ローン残高証明書、ローン返済予定表(ローンの残高がある場合)
- 建築確認済証、検査済証、建築設計図書、工事記録書(アパート、戸建ての場合)
- 地積測量図、境界確認書(アパート、戸建ての場合)
なお、売買の手順が進んでいくと、以下の書類も必要になりますので、合わせて揃えておきましょう。
- 登記済権利証または登記識別情報
- 印鑑証明書・実印
- 身分証明書
- 購入時の重要事項説明書(なくても大丈夫ですが、あると便利です)
不動産も中古車のように、複数の業者の一括査定サイトがありますので、そちらを利用しても良いですし、物件の近くの不動産会社、管理会社などにも声をかけてみましょう。
不動産会社に、売りたい目的、目標とする価格、時期などは明確に伝えることが大切です。
手順3:売却を任せる不動産会社を決める
売却を任せるには、不動産会社と媒介契約を結びます。媒介契約には以下の3種類があります。
- 一般媒介契約(複数の業者と契約可能)
- 専任媒介契約(1社に任せる)
- 専属専任媒介契約(専任媒介契約に似ているが、自分で買主を探すこともできなくなる)
一般媒介契約で複数の業者に任せる手もありますが、不動産会社としては、専任媒介契約を好みます。一般媒介契約ですと、複数の会社を使うことができますが、不動産会社は、あまり力を入れてくれません。
専任媒介契約は解除することもできますので、まずは、複数の会社に話しを聞いて、一番良いと思うとことろと、専任媒介契約を結ぶのがお勧めの方法です。
媒介契約を結ぶ頃に、ローンを借りている金融機関に返済の可能性があることを伝え、返済に必要な手順を確認するようにしましょう。契約によっては、返済する〇日前までの通知が必要となっている場合もありますので、注意してください。
手順4:売却の相手先と条件を決めて、契約の準備をする
購入希望者が見つかれば、まずは、買付申込書をもらいます。その後、価格や売買時期など、売買条件を確定して、契約書と重要事項説明書作成の準備に入ります。
契約書などは、売主・買主双方の仲介会社が作成作業を行います。上記で説明した通り、売主として資料を提供するものもありますので、事前に準備しておくようにしましょう。
手順5:契約
不動産会社などで契約手続きをします。契約書に捺印すると同時に、買主から手付金を受領します。手付金は、売買代金の10%であることが一般的です。
同時に仲介会社に仲介手数料の半金(50%)を支払うことがあります。(なお、この仲介手数料は、売買契約解除になれば、戻ってきます。)
契約すれば、引き渡し日も確定しますので、金融機関に正式に返済を申し込む手続きをします。
手順6:引き渡しの準備をする
契約手続きが完了すれば、後は引き渡しの準備です。買主は買主でローンの手続きを取ったりしますので、その準備期間のために、契約から引き渡しまでは、2週間から1ヶ月程度あけることが多くあります。
この期間に関係者に売却の日時を知らせて、手続きを取ってもらうことになります。相手先は以下の通りです。このあたりの手続きは仲介会社が慣れているので、必要な事項をまとめて教えてくれる場合が多いです。
- 金融機関
ローンを借りている金融機関に正式に期限前返済の申し込みをして、抵当権抹消の準備をしてもらいます。
金融機関は、返済手数料、途中利息などを計算して、返済日に入金が必要な金額を知らせてくれます。
引き渡し日は、金融機関への着金が確認できて、ようやく取引完了となります。 - 管理会社
区分マンションであれば、管理組合・管理会社に連絡を入れて管理費の引き落としを止めてもらう必要があります。アパートであれば、管理会社に所有者が変更になる旨を通知します。
管理会社を通じて、入居者には賃貸人が変更になる旨を伝える必要がありますが、通常、この作業は買主が行います。 - 保険会社
火災保険・地震保険に関しては、保険会社に解約日を連絡しましょう。日割りで計算し、支払った部分が戻ってきます。 - 電気・水道
アパートであれば、共用部分の電気・水道を解約します。区分マンションであれば、共用部分は組合名義で契約しているので、手続きは不要です。
手順7:引き渡し
買主から残代金の支払いを受けて、所有権移転に必要な書類を買主に渡します。残代金でローンの返済ができたことをその場で確認できれば、抵当権抹消のための書類を金融機関から受領し、司法書士に手続きをしてもらいます。
所有権移転と抵当権抹消の登記手続きは、同じ司法書士に任せることが一般的です。
仲介手数料は、契約時に半金、引き渡し時に半金を支払うか、もしくは、引き渡し時に全額を支払うかの、どちらかですが、前者のケースが多く見られます。
手順8:申告手続き
不動産を売却して、売却益が出た場合、翌年に確定申告をして所得税・住民税を納付します。
不動産売却時にかかる費用
不動産を売却するには、さまざまな費用がかかります。
費用1:不動産取引のための費用
不動産会社と仲介契約を結ぶだけでは費用は発生しませんが、いざ契約して引き渡すとなると以下の費用がかかります。
- 仲介手数料(売買価格の3%+6万円と消費税)
仲介手数料は法律で上限が決まっていますので、その範囲の中で不動産会社と話しあって決めますが、上限額が取り引きされるのが一般的です。(もちろん、値引き交渉はできます)
不動産会社が直接買い取る場合は、仲介手数料がかからないというメリットがあります。 - 契約書に貼付する印紙代(売買代金によって変わります)
- 登記費用(抵当権抹消があれば)
所有権移転に関する司法書士の報酬は、通常、買主が負担します。 - ローン返済費用
ローンを期限前に返済すると返済手数料を支払わなければならない契約もあります。ローン契約を確認してみましょう。
費用2:不動産まわりに関する費用
区分所有マンションであれば、そのまま不動産に手を加えずに売買することになりますが、一棟アパートなどであれば、売買の際に隣地境界線を確定するために測量をしたり、場合によっては解体して更地にして引き渡す場合もあります。
測量であれば、費用がかかる場合は50~100万円かかりますし、アパートの解体であれば、500~800万円くらいかかる場合もあります。
買主から、境界線を確定させて欲しい、更地で引き渡して欲しいなどのリクエストが入った際、安易にOKをするのではなく、きちんと費用を見積もってから受け入れるかどうかを決めるようにしてください。
費用3:売却後に支払う税金
不動産を売却し、売却益が出たのであれば、翌年、確定申告をして、所得税と住民税を支払う必要があります。なお、売却益を計算するときには、売却にかかった直接的な経費(仲介手数料、印紙代など)は、売却益から控除することができます。
税額は、不動産の保有期間が短期か長期かによって異なります。以下の注意点:1でご確認ください。
不動産を売却する際の注意点
注意点1:保有年数によって税金が異なる
個人の方が不動産を売却して、売却益を得ると、その所得に対して税金がかかります。しかし、その不動産の保有期間いよって税率が大きくことなります。
- 短期譲渡所得 39.63% (所得税30%+復興特別所得税0.63%+住民税9%)
- 長期譲渡所得 20.315% (所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)
譲渡した年の1月1日現在の所有期間が5年を超えれば、長期ですし、越えなければ短期となります。
ぴったり5年でなく、場合によっては6年くらいになることにも注意をしなけれなりません。所有期間も確認して、売却を進めるようにしましょう。
注意点2:複数の業者の話しを聞く
不動産会社は、大手不動産会社や地元の不動産会社などさまざまです。業者によって査定価格もまちまちです。複数の業者に話しを聞くようにしましょう。
今は、web上で簡単に見積もり価格を出してくれるような会社も増えてきています。まずは、そちらを利用してみるのも良いでしょう。
注意点3:高値で売れるように準備する
同じ物件でも、資料が揃っている、管理状況が良い物件の方が、多くの人の興味を得ることができます。また、仲介会社が物件の写真を撮影しますが、この写真も見栄えが良いに越したことはありません。
購入時に前の売主からもらった資料と合わせて、自分が所有していた期間、管理会社などから送られてきた資料も全て整理して保管するようにしておきましょう。
また、多少の修繕をして見栄えが良くなるようであれば、修繕をしてしまうのも手です。空室で売り出すのであれば、きちんと部屋の掃除をしておくことが重要です。
注意点4:相続税についても考える
相続時に不動産を所有していると、計算や分配が面倒くさいということで、生前に投資用不動産を売却してしまおうかという方もいらっしゃいます。
しかし、立地や物件によりケースバイケースではありますが、同じ時価の現金を保有することに比べて、不動産で保有する方が、相続税が安くなる場合が多く見られます。
更に、賃貸用に保有している不動産は、借地権割合や借家権割合といった掛け目を掛けて相続財産の評価額を算出するので、更に、軽減される場合もあります。
相続手続きを考えて、不動産の売却を考えている場合は、一度、税理士に相談して、金額的なメリットを計算しもらってから判断する方が良いでしょう。
まとめ
不動産を売却するには、それなりの準備が必要ですし、注意すべきこともあります。買取業者からセールスを受けて、何となく売却してしまうのではなく、適切なタイミングで、高い値段で売れるよう、この記事を参考にしてください。